日本ライトハウス情報文化センター        「ワンブックワンライフ」2014年10月号  <表紙イラスト:(武部はつ子画)>星が瞬く夜、お団子を供えてお月見をする男の子と女の子。餅つきに疲れたのかウサギが杵を置いて「ちと休憩・・・」。お月様もびっくり。女の子が「休憩だって・・・」と話しかけると男の子は空を見上げながら「ふーん・・・」。   (目次) ◇掲示板 ◇センターのページ ・ 盲導犬についての正しい理解と、温かい見守りを 盲導犬は“短命”“何があっても鳴かない訓練を受けている”は誤り ・【見学日和〜知れば、知るほどおもしろい】大阪YWCA点字子ども図書室 澤田祐子さんを訪ねて ・ iPS細胞移植手術の成功とロービジョンケア 医療とロービジョンケア、福祉サービスの連携を目指して ◇報告のページ              《掲示板》 ○V友の会施設見学会はリハと点字の拠点へ  今年度のボランティア友の会の施設見学会は当法人の視覚障害リハビリテーションセンターと点字情報技術センターを訪ねます。当館と同じライトハウスでも見学された方は少ないと思いますが、片や視覚障害リハビリテーションの国内発祥施設、片や当法人草創の施設です。 ぜひ一度、その歴史と現状をご覧ください。  日時 11月25日(火)13:00〜16:30  集合 12:30、JR東西線「放出駅」改札口  定員 25人  申込 3階総務係までどうぞ ○盲導犬育成チャリティカレンダーを発売中  可愛いラブラドールのデザインでお馴染みのイラストレーター小山るみこさん作の2015年版カレンダーを3階総務係で販売しています。A4判(見開きA3判)、1,000円。売上はすべてライトハウスの盲導犬育成費に充てられます。   ○10月の休館について  10月11日(土)はハッピーマンデーの振替休館日ですが、8階点字製作係と、5・4・3階は開室します。11月1日(土)は暦通り開館します。 ○視覚障害者の安全、安心な外出の実現を!  この夏、盲導犬に対する傷害と点字ブロック上を歩行中の女生徒への暴行が報じられ、大きな話題となりました。事件後、当事者団体が行った緊急のアンケート調査では、回答112人中4割もの人が外出時に「体や白杖が接触したり、厳しい言葉をかけられるなどの対人トラブル」を経験したと回答し、中には「顔や体をたたかれたり、足を絡められ」たり、「邪魔だ。どけ」と言われたという体験も報告されました。実は両事件後、大阪でも当館の利用者が2人相次いでホームから転落し、骨折する事故が続き、視覚障害者の外出が如何に危険や不安と隣り合わせであるかを、改めて痛感させられました。  暴行や暴言は論外ですが、昨今大いに危惧されるのは、携帯端末を見ながらの街路の歩行、人や物の点字ブロック上の占拠、自転車の強引な歩道上の運転など、視覚障害者をはじめ交通弱者に対する無神経の横行です。少なくとも私たちは常にそうした注意と配慮を持って外出し、視覚障害者が安全、安心に歩ける社会の実現を目指して取り組んでいきましょう。(館長 竹下)             《センターのページ》 盲導犬についての正しい理解と、温かい見守りを 盲導犬は“短命”“何があっても鳴かない訓練を受けている”は誤り  埼玉県で7月末、ユーザーと歩行中の盲導犬が何者かに傷つけられたニュースが8月末に報じられ、全国で大きな話題となりました。  「盲導犬を傷つけた犯人は許せない」「盲導犬に危害を加えても『器物損壊罪』しか適用されないのはおかしい」といった声が聞かれた一方、ショックだったのは、8月30日のTBSテレビ「新・情報7DAYS ニュースキャスター」でビートたけしさんが次のような発言を行い、しかもインターネットの掲示板やツイッターで多数の支持が寄せられたことです。  「盲導犬は神経を使うから、犬の寿命が16年なのに8年しか生きられない。そのような犠牲を受けているのに、今回の事件でさらに盲導犬が二重の犠牲を受けた。」  この内容は全くの誤りです。盲導犬の平均寿命はペット犬の平均寿命よりも長いことが、調査により明らかになっています。  さらに、「盲導犬が人の犠牲になっている」という発言も偏見です。盲導犬はユーザーのパートナーとして大事にされ、ユーザーの役に立つことを喜んでいるのです。  こうした発言は、今回被害を受け、犬の異常に気づいてやれなかったことを悔やみ、悲しんでいるユーザーはもちろん、盲導犬をかけがえのないパートナーとして暮らしているユーザーにとって耐えがたい仕打ちではないでしょうか。  また、マスコミでの報道の多くが「盲導犬は傷つけられても吠えない訓練を受けている」という“虚報”を流し、「盲導犬はかわいそう」という意識を視聴者に植え付けています。  その結果、最近、街中で盲導犬ユーザーに対して批判の声を浴びせる人が出始めました。さらに恐ろしいのは模倣犯です。「本当に何をしても鳴かないのか?」と面白がって、酷いことをする人が現れることが危惧されます。  そこで、皆さんにお伝えするとともに、お願いします。皆さんの周りで盲導犬の話題が出た時は、ぜひ以下の“事実”を伝えてください。 === *盲導犬は、痛みを我慢して鳴くのをやめたり、恐怖に耐えておとなしくするような訓練は一切受けていません。足やシッポを踏まれたら痛がって鳴きます。 *こういう被害に遭った時、盲導犬は鳴かない、動かないのではなく、攻撃的に吠えたり、噛みつくなどの「積極的な抵抗」をしないということです。これは、盲導犬になる条件の一つですが、そのような素養がない犬は訓練の途中でペットや実演犬などにキャリアチェンジします。 *盲導犬は子犬の時から、人の愛情をたっぷり注がれて育ち、100%人を信頼しています。食事や運動など、生活環境が整った状況で大事にされているからこそ、ストレスがなく、吠える必要もなく、いたずらもしないのです。 *盲導犬を街で見かけたら、温かく、静かに見守ってください。盲導犬に声をかけたり、目を合わせて手を振ったりすると視覚障害者を誘導中であることを忘れてしまい、事故につながりかねません。ユーザーと盲導犬が安心、安全に外を歩けるよう、皆さんのご理解とご協力をお願いします。 (録音製作係主任 岡本 昇) === (写真) 盲導犬は、そっと、静かに見守ってください(当館付近の歩道を歩く筆者と盲導犬) 【見学日和〜知れば、知るほどおもしろい】     大阪YWCA点字子ども図書室 澤田祐子さんを訪ねて   どこまでも続く 指のかけはし〜当初の製作目標3千タイトルを超えて  視覚障害に関係する施設や団体を訪問してご紹介する企画です。第3回目は、全国を対象に点字の児童書貸出を開始して昨年30年を迎えられた「大阪YWCA点字子ども図書室」を見学してきました。代表の澤田祐子(ゆうこ)さんに取り組まれている活動内容や、点訳に対する思いを伺いました。(総務係 林田 茂)  阪急北千里駅を下車、ショッピングセンターを抜けてちょっぴり急な坂道を登り切った所(徒歩5分)に活動場所のシャロン千里がありました。 点字子ども図書室をはじめたきっかけ  点訳ボランティア歴が40年を超える澤田さん。創立時から代表を務められています。1980年の国際障害者年にちなんで、障害者の方に直接寄与するようなことをしたいと大阪YWCA千里センターで話し合ったことがきっかけになったそうです。  まず、点字を知ってもらうために講習会を企画し、講師の派遣を当館に相談されたところ「澤田さんが講師をすればいいじゃないですか」と。当時はとても自信がなかったそうですが、家が近いことと、講師をすれば改めて点字も学び直せるという思いから引き受けられました。当時、「点訳の手引き 第1版」ができることと重なり、それを使って半年間(全20回)の講習会を実施。修了者26人の活動の場として点字図書の製作を開始し、当センターを含む図書館へ寄贈。製作本には「窓際のトットちゃん」「動物紳士録」などがあります。  そんな時、当館で点字の校正をしていると、職員と視覚障害のお子さんのお母さんが相談する声が聞こえてきたそうです。「児童書を探しています。子どもにも本を読ませたいけど点字の児童書をなかなか見つけることができない」。その声がきっかけとなり、1983年4月から100タイトルの蔵書で、点訳児童書の貸出を開始。先行して児童文庫活動を行っていた千里YWCA子ども図書室代表 上田さん(ペンネーム上条由美子さん)のお力もあり、同図書室がとても盛り上がっていたことも後押しになったそうです。  現在は、メンバーが自宅で点訳したデータを月曜日に持ち寄って校正作業を行い、貸出作業は月曜日と木曜日の2日間です。当日も約30人の方が賑やかに、そして熱心に活動されていました。 点字図書館も顔負けの製作体制  点訳作業と合わせて、製作図書の選書係、貸出係、目録作成係、規則係(点字表記は当館を基準)、助成金係などと役割があります。基本は班で活動しており、班長会議で意見や情報交換を行っているそうです。点訳はいうまでもなく間違いのないようにと、校正を3回行う徹底ぶりでした。 将来の安定的な運営を見すえて  「『国立国会図書館国際子ども図書館』に貸出、本の管理を引き受けてもらいたい! 私たちはきちっとした本を作っていくので、安定的な運営をしてもらえるのが夢。視覚障害の方も望む形だと思う」と語られました。しかし、それは簡単なことではないので、まずは満杯になり2か所に分かれている書庫の一本化と、今後を見据えた「手打ちの点訳図書」のデータ化を実現し、皆が気持ちよく活動できるように安定的な運営を図りたいと、図書室の運営や未来に思いをはせておられるのが印象的でした。私たちも見習うところがいっぱいです。なんといっても児童書への熱い思いを聴いていると私も読みたくなりました。  貸出は全国対象。製作数は毎年約100タイトルで、利用者には完成目録を年4回発送。2014年度には製作数が3,000タイトルを超える。30年間の貸出数は延べ4013人、合計12,334タイトル。 点字子ども図書室のURL http://osaka.ywca.or.jp/other/handicap/handicap01.html   (写真)点字こども図書室の本棚の前で点字本を開いてみせる澤田さん。 iPS細胞移植手術の成功とロービジョンケア 医療とロービジョンケア、福祉サービスの連携を目指して  9月12日、iPS細胞の網膜への移植手術成功のニュースが日本中を駆け巡りました。これは加齢黄斑変性という目の難病の患者に、患者自身のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った網膜色素上皮細胞を移植するという世界初の手術でした。  毎日、視覚障害の方々に接する私たちにとって、iPS細胞を使って最初に移植が行われるのが網膜であることは数年前からの大きな関心事でした。期待を持ちつつ注目してきたこの手術が実施され、その後の経過も順調と聞けたのはとても嬉しいことです。今回手術の対象となった加齢黄斑変性の患者さんやご家族にとってはもちろんのこと、他の眼疾患やそれ以外の疾病の方にとっても、新しい医療の第一歩という意味で今後に期待できるニュースでした。  このプロジェクトを先導されたのは、独立行政法人理化学研究所(神戸市)の高橋政代先生です。先生は研究のかたわら、各地でこのプロジェクトについて講演をされており、常に情報を発信してこられました。マスコミ等では話題の大きさ故に、今後の発展に期待する明るい部分ばかりが大きく取り上げられがちですが、先生が講演で必ず話をされるのが、「ロービジョンケア」の必要性です。7月に京都で行われた視覚障害リハビリテーション研究発表大会の特別講演でも、手術による視覚の回復はもちろん重要なことだが、現状で期待される視力の回復は0.1位までであり、そのために見えにくさを支援するという「ロービジョンケア」は継続的に実施されるべきだと、特に強調されていました。  iPS細胞の移植手術の話題は、多くの視覚に障害を持つ方に笑顔をもたらしたニュースです。今後、手術の件数が増え、ある程度の効果が出る人が増えてくると、視覚障害のある方は医療によって視覚が回復すると期待を持たれることでしょう。「手術で見えるようになるから」と当館のような支援機関を訪問しようとしない方も出てくるかもしれません。手術によって回復することは望ましいことですが、十分な体制 が整うまでには10年単位の期間が必要と言われています。その期間は見えにくいままでいいのか、そうではないはずです。福祉側の支援者が、当事者の見やすい環境作りや、外出時の安全な移動、仕事を継続するための支援、心理的な支援といったロービジョンケアを行えば、生活への不安は少し和らげられるでしょうし、できないと諦めてしまうことを減らしていけるのだと思います。  現在、当館5階のサービス部で行っている用具や図書の紹介、病院の紹介による相談もロービジョンケアです。すべての方が満足するというのは難しいですが、見えなくてできないと諦めていたことが用具や福祉サービスで可能になると、多くの方が笑顔を取り戻されて帰って行かれます。このような関わりは大切なことだと日々感じています。  今後もこうしたロービジョンケアを行い、充実させていくためには医療との連携は欠かせません。そのためには支援機関から医療機関へ情報発信していくことも必要ですし、福祉側では福祉施設間、その他の分野の施設間との連携も深めていくなども必要でしょう。  大きなニュースに、さまざまな情報が行きかい、増幅していますが、私たちはiPS細胞の移植手術の今後の経過を見守りつつ、私たちが今できることを行って、より良い支援をしていこうと思います。  (サービス部 原田美貴)  (写真)当館5階でロービジョングッズを紹介する筆者          《報告のページ》 ○日本ライトハウス展に1,210人がご来場  9月27・28日、難波で開催した「日本ライトハウス展〜全国ロービジョンフェア2014」(読売光と愛の事業団共催)は1,210人の来場者で賑わいました。詳しくは次号で報告しますが、多くのお客様から「良かった」「楽しかった」という声を頂いています。 ○第44回朗読録音・文科大臣賞を久保洋子さん、全国表彰を梨智子さんが受賞  鉄道弘済会の第44回朗読録音奉仕者表彰で当館の久保洋子さんが文部科学大臣賞を、高梨智子さんが全国表彰を受賞され、9月26日、東京で表彰式が行われました。久保さんは2002年の全国表彰受賞後も専門図書の普及・充実に貢献されていることが評価され、梨さんは31年にわたる専門書を含め184タイトル(1,786時間)の録音実績と、聴きやすい音訳が評価されました。お二人のますますのご活躍をお祈りいたします。 ○11月14日に対面リーディングVの集い  今年の「対面リーディングボランティアの集い」を11月14日(金)午後1時から4時、4階会議室で開催します。講師は5階サービス部の竹田幸代職員。利用者の立場から「地域における対面での体験談」を聴きます。またボランティア同士の意見・情報交換も行います。お申し込みは対面担当職員まで。 ○ボランティアの吉田政雄さんがご逝去 1995年10月から昨年まで19年間に亘り、読み方調べの入力作業をお手伝いいただいたボランティアの吉田政雄さんが8月3日、亡くなられたと奥様からお電話をいただきました。82歳だったそうです。点字製作係のパソコンでいつも黙々と入力作業をしてくださっていたお姿が忘れられません。心からご冥福をお祈りいたします。 あゆみ 【9月】 3日 専門点訳理数(高校用)講習会開講 対面リーディング基礎講習会 4日 ボランティア友の会世話人会 19日 鉄道弘済会朗読録音地区表彰式(水野順子さん、東佳子さん受賞) 20日 オープンデー(館内見学日) 27日 日本ライトハウス展(〜28日、なんば) 予定 【10月】 1日 音訳基礎講習会開講 10日 点訳技術講習会開講、見学:宇治市視覚障害者協会 11日 振替休館(点字製作係と5階サービス部、4階会議室、3階総務係は開室) 18日 オープンデー(館内見学日、要予約) 23日 全視情協大会(〜24日、徳島市:竹下、岡田、久保田、林田、岡本、奥野、福田、松本、江島) 31日 わろう座映画体験会「奇跡のりんご」、見学:佐賀県立盲学校 編集後記 日本ライトハウス展では毎回反省の種が尽きないのですが、誇れるのはボランティアによるお客様の接遇です。初日の晩、ネット上にこんな書き込みが公開されました。「いつも感心するのはライトハウス展が多くのボランティアさんの協力で成り立っていること。(閉会まで時間がなかったが)ブースの概要を的確に案内してくださりすごい。」長時間の“立ち・歩き・喋り・待ち”作業のご協力に感謝。(竹) =ONE(ワン) BOOK(ブツク) ONE(ワン) LIFE(ライフ) 2014年10月号= 発 行 社会福祉法人日本ライトハウス      情報文化センター(館長 竹下 亘) 住 所 大阪市西区江戸堀1-13-2(〒550-0002)     TEL 06-6441-0015 FAX 06-6441-0095     E-mail info@iccb.jp 表紙絵 武部はつ子 発行日 2014年10月1日 定 価 1部100円 年間購読料1,000円