日本ライトハウス情報文化センター        「ワンブックワンライフ」2013年10月号  <表紙イラスト:(武部はつ子画)>テーブルに向かい合い、あぐらをかいて腕組みしたお父さんとエプロン姿で困った様子のお母さんが座っている。テーブルの上にはカゴに入ったりっぱな松茸。二人の子供が「松茸ご飯・・・!!」「いや、焼き松茸だ・・!!」ととっくみあいのけんかをしている。お父さんが松茸を見つめながら「1本だけなんて・・・」 (目次) ◇掲示板 ◇センターのページ   ・在宅の視覚障害児・者は推計31万6千人 厚労省の平成23年全国在宅障害児・者等実態調査から   ・「サピエ」と「島根あさひ事業所」〜全視情協が直面する2つの課題 ・ 視覚障害をもつ学生の受験事情 ◇報告のページ             《掲示板》 ○養護盲老人ホーム「慈母園」へバスツアー  今年度のボランティア友の会の施設見学会は昭和36年、わが国初の「盲老人ホーム」として奈良県の西国観音霊場・壺阪寺(つぼさかでら)境内に開園した「慈母(じぼ)園」を、バスツアーを兼ねて見学します。つぼさか茶屋でお食事のあとは、初冬の壺阪寺を散策します。ボランティア活動もお休みの日、ぜひ今からご予定に入れてください。  日時 12月9日(月)9時〜16時  集合・解散 JR大阪駅前  定員 45人  費用 3,000円(旅費の一部を友の会が負担)※申込時にお支払いいただきます。  申込 総務係まで。10月1日から受付を開始 ○対面リーディングボランティアの集い  今年の対面リーディングボランティアの集いはいつもと趣向を変え、利用者の皆様をお招きし、サービスを受ける側と実施する側の感想や意見交換会を行う予定です。  また、6月より貸出を開始している「シネマ・デイジー」(映画の主音声と音声解説を一緒に収録・編集しているデイジー図書)の製作に携わっておられる渡邊洋子さんにお話を伺います。情景や人物の動作など音だけではわからない部分を取捨選択しながら、要点を的確に伝えていく方法は対面に通じるところがあると思います。  日時 11月14日(木)13時から  場所 当館4階会議室1  幅広い意見交換ができるまたとない機会です。ぜひご参加下さい。お申込みは対面担当者まで。 ○盲導犬育成チャリティカレンダー発売  チャリティグッズのデザインでおなじみのイラストレーター小山るみこさん作の2014年版カレンダーを10月中旬から3階総務係で販売します。A4判(見開きA3判)、1,000円。ご予約は受付中です。売上金は、すべて日本ライトハウスの盲導犬育成費に充てられます。 ○10月5日(土)は休館、12日(土)は開館  10月5日(土)は日本ライトハウス展のため全館休館。12日(土)は通常ハッピーマンデーの振替休館日ですが、図書貸出以外は開館します。 《センターのページ》 在宅の視覚障害児・者は推計31万6千人    厚労省の平成23年全国在宅障害児・者等実態調査から  厚生労働省が5年毎に行っている標題調査の最新結果が6月末に発表されました。今回は「平成23年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」と題し、従来の調査を拡大して、「これまでの法制度では支援の対象とならない/障害者手帳は所持していないが、長引く病気やけが等により、日常生活にしづらさを感じている者」も対象にしたのが特徴です。調査項目が従来と異なるため、前回調査との比較ができず、視覚障害児・者の実態が見えにくい面もありますが、主な調査結果をお伝えします。(館長 竹下 亘) 視覚障害者はほぼ80%が60歳以上  この調査は平成23年の国勢調査に合わせ、全国約24,000人を対象に行われ、約14,000人の有効回答を元に推計したものです。まず、全国の在宅の視覚障害児・者の数(身体障害者手帳の所持者)は推計315,500人。(この中には、福祉施設などで生活している視覚障害者・児は含まれていません。)  年齢別に見ると、下表のとおり60歳以上が合計79.6%を占め、5年前の70.6%からさらに高齢化が進んでいることが分かります。 −−−−−−−−−−−−−− 年齢  %(推計人数) 65歳以上  69.0 (217,700人) 60〜64歳  10.6 ( 30,500人) 50歳代    8.9 ( 28,000人) 40歳代    5.8 ( 18,200人) 30歳代    3.1 ( 9,800人) 18〜29歳   1.6 ( 4,900人) 18歳未満   1.6 ( 4,900人) −−−−−−−−−−−−−− ※この他に、年齢不祥が1,500人  この超高齢化の背景には、特定の疾病などにより、中高年以降に視覚障害になる人が年々増え、かつ長寿化する一方、誕生時や出生直後、及び幼少期に視覚障害になる人が医療や衛生の進歩で激減している現状があります。  なお、視覚障害になった年齢は調査されていませんが、参考になるのが、「生活のしづらさが生じ始めた年齢」という調査項目です。65歳以上の障害者手帳所持者の内、「60歳を超えてから」と答えた人が60.9%に達しており、単に高齢化しているだけでなく、高齢になってから視覚障害になる人が増えていることが十分に予想されます。     「全盲」が64.6%、「弱視」が35.3%  次に、障害程度別では1級が36.2%、2級が28.5%で、全盲かそれに近い人が合計64.6%に達しています。一方、3級〜6級の弱視(ロービジョン)に相当する人は35.3%でした。  しかし、日本眼科医会では、2007年現在の国内の視覚障害者数を推計164万人と発表しています(2009年9月)。その内、良い方の目の矯正視力が0.1超〜0.5未満の「ロービジョン者」を144万9千人、0.1以下の「失明者」を18万8千人と試算。つまり、全盲かそれに近い人の数は今回の調査とほぼ同程度ですが、目の見えにくい人で、身体障害者手帳を持っていない人は、今回の調査の10倍以上に達することも予想されるのです。  (なお、日本眼科医会の発表では、原因疾患の割合も試算されており、緑内障24%、糖尿病網膜症21%、変性近視12%、加齢黄斑変性症11%、白内障7%の順となっています。)  また、今回は調査が行われませんでしたが、前回(平成18年)の調査では、視覚障害児・者の中に聴覚障害を併せ持つ「盲ろう児・者」が推計23,200人いると発表されています。その他にも、以下の通り、肢体不自由や内部障害を併せ持つ人が15%を超えており、特に視覚障害児童の場合、50%以上が重複障害を持っていることが推測されます。  −−−−−−−−−−−− (平成18年調査)視覚とその他の障害を合わせ持つ人の数 重複障害の種類  18歳以上  18歳未満 聴覚障害     22,000人   1,200人 肢体不自由    32,000人   1,500人 内部障害     15,000人    -- −−−−−−−−−−−− 日本の障害者の総数は推計787.9万人  この他、今回の調査について、厚労省は次のように「結果の概要」をまとめていますので、紹介しておきます。 −−−−−−−−−−−− わが国の障害者の総数推計値  787.9万人   障害者手帳所持者 479.2万人   (内訳)身体障害者手帳所持者 386.4万人       療育手帳所持者 62.2万人 精神障害者保健福祉手帳所持者 56.8万人 手帳非所持者で自立支援給付等を受けている者 32.0万人 手帳非所持かつ自立支援給付等を受けていない者の中で、日常生活のしづらさがある者 132.9万人(65歳以上 103.5万人)  −−−−−−−−−−−− ここで注目したいのは、上の表の「障害者手帳非所持者」の合計164.9万人に、視覚障害者手帳所持者の割合8.8%をかけると、目に障害があって困っていると思われる人が、推測で14.5万人に達することです。  当センターでは、既に2009年の新館開館時から、身体障害者手帳の所持に関わりなく、視覚障害その他の理由で本(文字)の読み書きが困難な方にサービスを提供していますが、今後もさらに多くの方々に当センターのサービスを広報し、利用して頂きたいと思います。 【参考】 ◆大阪府内における視覚障害者手帳所持者数(平成23年度=平成24年3月31日現在) −−−−−−−−−−−− 大阪府全体   26,853人   (内訳)大阪市  10,687人       堺市   2,366人 高槻市   892人 東大阪市  1,469人 大阪府 ※11,439人  −−−−−−−−−−−− ※は高槻市以外の政令市・中核市を除く ◆平成23年度の新規視覚障害者手帳交付数 −−−−−−−−−−−− 大阪市  338人 大阪府(政令市・中核市を除く) 486人 堺市、高槻市、東大阪市    未確認 −−−−−−−−−−−− 「サピエ」と「島根あさひ事業所」〜全視情協が直面する2つの課題 館長 竹下 亘 特定非営利活動法人・全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)は1981年に全国点字図書館協議会として結成され、2001年にNPO法人化した団体です。全国の視覚障害者情報提供施設(点字図書館)を中心に、公共図書館やNPO団体など97施設・団体が加盟。点字・録音図書等の貸出サービスの相互協力と点訳・録音等の技術の向上、ボランティア活動の振興を目指して、各種の委員会・研修会の開催やマニュアル類の出版を行い、わが国の視覚障害者等に対する情報提供サービスの発展を担ってきました。  当館では、川越利信−岩井和彦両館長が十年余りに亘り理事長を務め、館内で事務局を預かるなど屋台骨を支えてきましたが、その流れから今春、私が副理事長を引き受けることになりました。  この全視情協が目下直面する最大の課題が「サピエ」と「島根あさひ事業所」の運営です。  サピエは、世界に類を見ないインターネットによる視覚障害者情報システムです。1988年、日本IBMの社会貢献事業「てんやく広場」として誕生し、その後、「ないーぶネット」に生まれ変わり、さらにデイジー録音を配信する「びぶりおネット」と合体することで、2010年から新生「サピエ」が誕生しました。  現在260余の施設・団体が参加し、総計56万タイトルの点字・録音図書の検索・借出と、15万タイトルの点字図書と4万タイトルの録音図書を直接読める“電子図書館”の他、地域・生活情報の配信や点訳・音訳の製作支援機能も備えています。PC等を使って直接利用する視覚障害者等は1万1千人を超え、毎年1千人単位で増えています。  ところが、このサピエが今、予算難から存続の危機にさらされています。  実は、サピエは2010年度、日本点字図書館に付いた単年度限りの補正予算を全視情協と日点が運用することで誕生し、その予算の消化後は全視情協の自助努力と利用者の協力金、日点に対するの厚労省の補助金で何とか維持していますが、サーバの維持・更新費用が尽きるのは目前です。そのため、全視情協、日点、当法人など関係団体は協議を重ね、厚労省等関係省庁との交渉を続けていますが、いまだに打開策は見い出せていません。  一方、島根あさひ事業所は、島根県浜田市にある官民共同運営の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で、全視情協が5年前から受託運営している職業訓練事業です。  約1500人の受刑者の内、点訳科40人弱、音訳科60人弱を1年単位で訓練生として受け入れ、全視情協の現地職員9人が週5日間指導。年間60コマを超える点訳・録音講習と、全視情協加盟館の依頼による点字写本や点字プリンター印刷、封筒点字印刷、テープのデジタル化やCD・テープコピー、テキストデイジー作成など、社会貢献に繋がる作業を提供し、社会復帰を応援しています。しかし、委託費は限られているため、訓練生にとってより有意義な職業訓練を、赤字にならないように行うことに四苦八苦しています。  このように課題は多く、前途は多難ですが、全視情協の発展なくして、当館はもちろん、わが国の視覚障害者等の情報提供サービスの発展はあり得ません。その確信と希望をもって、情報文化センターと全視情協の運営の両立に努めているところです。            《利用者のページ》 視覚障害をもつ学生の受験事情 サービス部 前北純弥(まえきた・じゅんや)  視覚障害者にとっての「受験」について、弱視である私の経験も踏まえて少しご紹介したいと思います。学生時に受ける試験というと学校受験、就職試験、各種資格試験や検定試験などいろいろなものが考えられますが、ここでは主に大学入試センター試験を取りあげて、お話を進めたいと思います。  今年1月18日の毎日新聞の記事によると、今年のセンター試験を受験した障害をもつ人は1,618人(過去最多)、そのうち視覚障害者は88人とのこと。障害をもちながらでも多くの方が希望する進路を目指す機会を得ています。  視覚障害のある受験生への特別措置としては、  @点字による教育を受けている者=試験時間を1.5倍に延長、点字による出題・解答、別室受験。数学と理科ではレーズライターと用紙を配付。  A「良い方の眼の矯正視力が0.15以下」または「両眼による視野について視能率による損失率が90%以上」の者=試験時間を1.3倍に延長、拡大文字(14ポイント、ゴシック体)問題冊子配付、マークシートに代えて文字による解答用紙配付、拡大鏡等の持参使用。  このように対象が大きく2つに分けられています。Aの場合には、条件に当てはまらないケースでも、時間延長以外の配慮は受けられるようです。またその他の配慮事項として、試験室入口までの付添者同伴、試験会場への乗用車での入構、窓側の明るい座席の指定、照明器具の使用といったことが規定されています。視覚障害以外についても、それぞれ特別措置が定められています。  私は2004年に5教科・7科目を受験しました。時間は1.3倍、拡大読書器使用、墨字による解答、そして読書器搬入のために乗用車での入構を認めていただきました。  第一の感想としては「もう少し時間がほしい」ということ。特に英語や国語といった、多くの文章を読む必要がある教科は最後まで目を通すことは難しいと感じました。文章の中から下線部や空欄箇所を探すときにも、やはり時間がかかってしまいます。点字受験の場合には1問が何ページにもわたってしまうので、さらに時間がかかるのではないかと思います。受験前から時間が足りないことは分かっていたので、いかに効率よく問題を解くか、その対策を練っていた記憶があります。  センター試験に限らずですが、もう一つ時間の面でのハンディを感じてしまうのが、いくつかの資料をもとに答える問題。表やグラフの中から必要なデータを探し、また別の資料からデータを探して見比べるといった作業は時間がかかるので、後回しにしていました。  センター試験以外では、学生時には私立大学入試、社会福祉士資格試験、公務員試験などを受験しましたが、受験規定がある部分についてはその規定に従い、規定のない部分については事前に具体的な配慮事項の希望を出して検討していただく形でした。最近では一部の自治体の採用試験で、パソコン受験(スクリーンリーダー、つまりコンピュータの画面読み上げソフトウェアによる受験)が導入されるなど、受験者を取り巻く状況も変わってきています。細かい内容や形式によって、受験者全員が納得のいくように…というのは難しいですが、できるだけ各受験者が持つ力を十分に発揮できる環境を整えてほしいと思います。 【レーズライター】 「表面作図器」ともいいます。ゴム板の上に特殊なセロファンを置き、その上からボールペンで描きます(手が汚れないようインクが無いものがふさわしい)。描図や絵が、描いた側に浮き出るので指先で辿り、確認することができます。            《報告のページ》 ○朗読録音・文科大臣賞を田主さんが受賞  鉄道弘済会の第43回朗読・録音奉仕者感謝の集いで、当館ボランティアの田主子(しょうこ)さんが文部科学大臣賞を受賞され、9月末東京で授賞式が行われました。同賞は過去5年の全国表彰受賞者から選ばれるもので、田主さんは33年にわたり、古典・東洋医学の専門書や司馬遼太郎のシリーズなど290タイトル(2,328時間30分)の録音をされた実績が評価されました。心からお祝いするとともに、さらなるご活躍をお祈りします。 ○警報発令時のボランティア活動について  当館では、「気象警報」が出た場合、以下のようにボランティア活動と館内サービスを休止します(職員は可能な限り出勤し、業務を行います)。前号にも掲載しましたが、より正確を期すため一部修正しましたので、再確認をお願いいたします。  @大阪府下(一部でも)に「気象警報」が発令された場合、以下の原則で休止します。  *午前7時現在、警報発令中、及び午前10時までに発令された場合=午前中休止  *午前10時現在、警報発令中、及び午後1時までに発令された場合=1時以降休止  *警報解除の時刻や来館目的などにより対応を迷われた場合は、館へお電話下さい。  A開館中に警報が出た場合は、往復路の危険性や警報の見通しを判断した上で、対応を決めます。館内放送か各部署の職員の指示に従ってください。  Bその他の場合でも、館長が危険と判断した場合は、休館することがあります。 ○3階と別館にAEDを設置 当館3階総務係と別館図書貸出係にAEDを設置しました。館内の設置場所や使用時の諸注意に関する掲示をご確認ください。 ○当館「サービス一覧」を差し上げます  当館でご利用いただけるサービスを一覧にし、簡潔にまとめた冊子を発行しました。ご覧になりたい方、どなたかに紹介されたい方は、3階総務係にお申し付けください。 あゆみ 【9月】 5日 ボランティア友の会世話人会、AED訓練、対面リーディング基礎講習会、見学:釜山点字図書館(9/26、10/3) 12日 鉄道弘済会・朗読録音奉仕者西日本地区表彰式(ホテルグランヴィア大阪) 14日 振替休館(3、4、5階のみ開館) 21日 オープンデー(館内見学日) 予定 【10月】 1日 音訳基礎講習会開講 2日 見学:シロアム視覚障害者福祉館 5日 日本ライトハウス展2013(〜6日、難波御堂筋ビル7階、全館休館) 11日 点訳技術講習会開講 17日 全視協大会(〜18日、横浜市:竹下、岡田、久保田、奥野、木田、松本、長本)、見学:大阪府特別支援学校保護者会 19日 オープンデー(館内見学日、要予約) 23日 見学:近畿盲学校PTA連絡協議会 編集後記 祝!オリンピック・パラリンピック2020年に東京開催が決定!視覚障害者の方がもっとスポーツを楽しめるように、2020年にはテレビでも大会会場に行っても音声解説(副音声)が聴ける環境を作りたいです。シネマ・デイジーでは構想から形になるまで3年がかかりました。オリンピックまで7年。時間的には十分だ。(茂) =ONE BOOK ONE LIFE 2013年10月号= 発行  社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センター 発行人 竹下 亘 住所  大阪市西区江戸堀1丁目13−2(〒550−0002)     TEL 06−6441−0015 FAX 06−6441−0095