日本ライトハウス情報文化センター        「ワンブックワンライフ」2014年7月号  <表紙イラスト:(武部はつ子画)>蛍が舞い、辺りは真っ暗な夜道。浴衣を着た男の子と女の子が歩いている。男の子が連れてきた犬に向かって「ばぁ〜っ」とおばけの格好。女の子は顔をしかめて「無粋なやつ・・・!」   (目次) ◇掲示板 ◇センターのページ ・地域の連携・協力による情報提供サービスの発展を目指して 近畿視覚障害者情報サービス研究協議会が発足40周年 ・52人の利用者に年間1,083件の“読み書き”をサポート 2013年度の対面リーディング実績報告から ◇利用者のページ ・白杖を人前で使えるようになるまでの葛藤の日々 「ガイド体験会」で明かされたAさんの体験談から ◇報告のページ              《掲示板》 ○大学の障害学生支援の現状を学びませんか  これまで大学生の学習を点訳・音訳・テキスト化・対面等で支援してきたボランティアの方は少なくないと思いますが、最近、障害のある学生に対する大学の学習環境が大幅に改善されつつあります。近畿視情協図書館サービス委員会では、そうした現状と今後の図書館やボランティアと大学の連携の可能性をテーマに、7月31日(木)13時30分から16時30分、当館で研修会を開催します。講師は、京都産業大学ボランティアセンター職員の安田真之さんと立命館グローバル・イノベーション研究機構専門研究員の植村要さん。参加無料。どなたでも聴講歓迎。墨字以外の資料をご希望の方は事前申込みを。 ○78歳で博士号の森田さんがラジオ出演  当館の利用者で、今春、78歳で関西学院大学院から博士号を取得した森田昭二さんのインタビューがNHK「聞いて聞かせて〜視覚障害ナビ・ラジオ」でインターネット放送中です。64歳で失明後、点字を学び、大学に入り直したお話に勇気づけられます。「視覚障害ナビ・ラジオ」で検索し、5月24日の放送で聴けます。 ○警報発令時のボランティア活動について  異常気象が続いています。当館では、大阪府内(一部でも)に「気象警報」が出た場合、以下のようにボランティア活動と館内サービスを休止します。ご協力をお願いいたします。  @午前7時に警報が出ている場合=午後1時まで休止  A午前10時に警報が出ている場合=午後1時以降休止  B午前10時以降に警報が出た場合はその時点で休止(開館中に警報が出た場合は、往復路の危険性や警報の見通しを判断した上で、対応を決めますので、館内放送や各部署の職員の指示に従ってください。)  Cその他、館長が危険と判断した場合は休止することがある。 ○7月19日(土)は「海の日」の振替休館  7月19日(土)はハッピーマンデーの振替のため、本館6〜8階の製作部門とアルテ分館の図書貸出は休館。サービス部門(5階サービスフロア、4階会議室、3階総務係)は開館します。             《センターのページ》      地域の連携・協力による情報提供サービスの発展を目指して       近畿視覚障害者情報サービス研究協議会が発足40周年  近畿視情協(近畿視覚障害者情報サービス研究協議会)が発足40周年を迎えました。近畿視情協は点字図書館13館と公共図書館28館、その他3団体の計44館・団体が加盟。目録の共有や職員・ボランティアの研修などで連携・協力を進め、近畿における視覚障害者等への情報提供サービスの向上を目指す、全国でも希な団体です。40周年を機に、もっとボランティアの皆さまに繋がる活動を行っていきたいと考えていますので、関心をお寄せ下さい。(近畿視情協会長 竹下 亘) 「新刊案内」の発行と、職員の研修等を実施  近畿視情協は、1972年に当館など4館で結成した「京阪神点字図書館連絡協議会」を母体に、1974年、公共図書館2館を含む12館により「近畿点字図書館研究協議会」として発足しました。  主な活動としては、加盟館の点字・録音図書を集めた「新刊案内」を毎月活字と音声(デイジーとテープ)で発行し、館間貸借を進めて、各館の利用者により多くの本を提供するとともに、毎年1回、大規模なボランティア研修会(12月頃)や職員研修会(2月頃)を開催。また図書館サービス、点字製作、録音製作の3委員会を定期的に開き、職員の研修や情報交換を実施しているほか、以前は専門音訳チームを組織し、録音図書・雑誌の共同製作も行いました。  今後、特に図書館サービス委員会では、一般の方にもご参加いただけるような研修を実施していくほか、近く地域のボランティアグループにアンケート調査を行い、さらに連携・協力を進めていきたいと考えていますので、ご協力をお願いします。 近畿視情協の歩み 1974 発足(近畿点字図書館研究協議会) 1975 「点字・録音図書新刊目録」(月刊)発行 1977 第1回ボランティア研修会 1979 「点字・録音図書目録規則」発行 1981 「点字図書製作基準」「録音図書共同製作基準」発行 1983 第1回製作委員会(共同製作開始) 1985 第1回録音製作委員会開始 1986 第1回貸出委員会開始(現図書館サービス委員会) 1995 「これから始める図書館のための視覚障害者サービスマニュアル」発行(数次改訂) 近畿視情協加盟館一覧(44館・団体) 【点字図書館】 大阪市立早川福祉会館点字図書室、大阪府盲人福祉センター点字図書館、京都ライトハウス情報ステーション、神戸市立点字図書館、堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センター、滋賀県立視覚障害者センター、丹後視力障害者福祉センター点字図書館、天理教点字文庫、奈良県視覚障害者福祉センター、西宮市視覚障害者図書館、日本ライトハウス情報文化センター、兵庫県点字図書館、和歌山点字図書館 【その他】 貝塚市民福祉センター点字図書室、JBS日本福祉放送、デイジー枚方 【公共図書館】 ◆大阪府=池田市立、泉大津市立、茨木市立中央、大阪市立中央、大阪府立中央、貝塚市民、岸和田市立、四条畷市立四条畷、吹田市立千里山・佐井寺、摂津市民、高石市立、高槻市立小寺池、豊中市立岡町、富田林市立中央・金剛、寝屋川市立中央、羽曳野市立陵南の森、阪南市立、東大阪市立永和・花園・旭町、枚方市立中央、藤井寺市立、松原市民、箕面市立中央 ◆京都府=八幡市立八幡市民・男山 ◆滋賀県=草津市立、日野町立、栗東市立 ◆兵庫県=尼崎市立中央・北、稲美町立 52人の利用者に年間1,083件の“読み書き”をサポート 2013年度の対面リーディング実績報告から  当館では館内の対面スタジオ5室を使用し、来館される視覚障害等に対面リーディングサービスを提供しています。昨年度は、対面ボランティア132人(登録153人)のご協力で、実利用者52人に対し、延べ利用者数1,083件(1回2時間)の読み書きサービスを提供。これは全国でも突出したサービス件数で、最新の全国統計(平成26年1月発表の平成23年度)によると、全国平均は約100件。全国合計でも40館の約4,000件に過ぎず、当館に次いで2番目に多い館でも年間400件弱にとどまっています。普段は本誌の「感謝報告」で、活動者のお名前しかご紹介していない対面サービスの状況をご紹介します。  利用の状況(一覧表)  以下は分類、内容、利用件数の順。利用件数は、2012年度に続いて、2013年度の数字を掲載。 新聞・雑誌 新聞 143 180 総合雑誌 96  68 鉄道雑誌・時刻表等 3 11 スポーツ・スポーツ誌 33 43 人文・地歴 哲学・心理学・宗教 30 29 哲学・社会 伝記・歴史・地理(旅行ガイド含む) 59 84 社会科学(社会福祉・政経・株式) 92 101 文学・芸術 芸術一般・芸能・音楽(楽譜等) 56  29 文学・エッセイ 264 337 短歌・俳句・川柳・詩 21  6 科学・医学 東洋医学・西洋医学 5   4 技術 数学・科学・物理・生物ほか 13   14 工学(コンピュータ・無線等) 1   1 資格・検定 資格試験問題 297 145 語学 語学(英会話・TOEIC等)・外国語 145 120 生活一般 家事・育児・料理 3 9 各種取扱説明書(携帯電話等) 9 8 チラシ・手紙・DM・パンフレット 98 83 その他 代筆 43 74 コンピュータ補助(データ修正等) 17 9 その他 5 0 合計 1,433件 1,355件   2013年度は、前年度と比較すると「新聞」と「代筆」が増えています。特に「代筆」は約2倍になり、対面対面リーディングの「読む」以外の利用が増えつつあることを示しています。 対面リーディングは初見で読んでいただくことが原則ですが、事前に読む図書が分かっていれば、目を通していただくこともできます。但し利用者はしばしば複数の本を持ち込まれることもありますので、基本的な知識と経験、そして臨機応変な対応が求められています。       2013年度利用ベスト10(一覧表) 1 文学・エッセイ   337 2 新聞        180 3 資格試験問題    145 4 語学・外国語    120 5 社会科学      101 6 伝記・歴史・地理    84 7 チラシ・手紙・DM等 83 8 代筆        74 9 総合雑誌     68 10 スポーツ(誌)     43   年度別利用件数の推移(棒線グラフ)  単位は件数 2005年度   893  2006年度   722  2007年度   744  2008年度   834  2009年度   767  2010年度  1206   2011年度 1077  2012年度 1433  2013年度 1355  分類別利用件数の割合(円グラフ)  新聞 22%  人文 16%  文学 28%  科学 1%  資格 20%  生活  7%  その他 6%             《利用者のページ》      白杖を人前で使えるようになるまでの葛藤の日々 「ガイド体験会」で明かされたAさんの体験談から  全国で在宅の視覚障害児・者の数は推計315,500人と言われていますが、これは障害者手帳を所持している方の数です。障害者手帳を取得すれば、障害等級に沿ったサービスを利用でき、より豊かな生活へ向けて、一歩踏み出すこともできますが、それでも「障害者」と認定されることに抵抗を感じる人はたくさんおられると聞きます。幼い頃に網膜色素変性症と診断され、見えにくさと上手に付き合ってきたAさん(女性)。日頃は視覚障害者団体のスタッフとして活躍されていますが、障害者手帳の取得や白杖の使用を受容するまでには長い葛藤の時期があったそうです。先日の「ガイド体験会」で、その頃の心境を初めて明かしてくださいました。(総務係 加治川 千賀子)     見えづらさを理解されなかった子ども時代  Aさんが幼い頃、たびたび物にぶつかる原因が視野が狭いせいだとご両親は気づかず、そそっかしいからだと思っていました。小学校入学直後に保健の先生が見え方がおかしいと気づかれ、通院が始まります。病名は網膜色素変性症。18歳までに失明すると宣告されました。その時の両親の落胆ぶりは今でも思い浮かぶそうです。  当時は中心視力が0.7あり、比較的遠い所は見えたので、みなと同じように走り回ったり、自転車に乗って活発に遊んでいました。ですから、視野が狭く、足下が見えづらいということは周囲からなかなか理解されませんでした。  しだいに文字も読めなくなりましたが、色のコントラストを利用したり、いろんな工夫を重ねて生活し、障害者手帳の取得を拒み続けてきました。障害者だと自認するのは勇気がいりました。しかし、31歳の時、緑内障の発作が起きたことがきっかけで、ついに手帳申請しました。  そして、初めて白杖を手にしたのはさらに5年後。何年もバッグにしまったまま、どうしても出すことができなかったそうです。     白杖の有用さを知っても、なお持てない心  ある日、こんな経験をしたそうです。阪急梅田駅から阪急百貨店へ向かいましたが、行き交う人たちにぶつかるばかりで何度も怒られ、とうとう柱の陰で動けなくなりました。「どうしても百貨店まで行きたい」と思い切って白杖をバッグから出しました。伸ばした先に通行人が引っかかってこけそうになったのに、その人はAさんに「すみません」と謝ったのです。「今まで怒られてばかりいたのに、どうして謝ってくれるんだろう。」思いがけないことでした。歩き出すと、白杖を見て周りの人たちが道を空けてくれました。快感でした。  その後は、店員さんに商品の説明を受ける時や、梅田だけでなく自宅の最寄り駅でも、バッグから出し入れを繰り返しながら、使う頻度は少しずつ増えました。最後まで使うことができなかったのは、自宅を中心に半径500mの範囲でした。視力低下が進み、ご近所の方に挨拶ができない、バスのドアがわからず乗れないなど、できないことが一つずつ増えていき、周りから不本意な誤解を受けて歯がゆい思いをしました。「白杖さえ持てればわかってもらえるのに・・・」。持つか、持たないか、自問自答の日々。自宅前の通学路を猛スピードで走る自転車から身を守るため、ついに持つしかなくなりました。白杖を買ってから9年の歳月が流れていました。     その方に寄り添い、自己決定の尊重を  Aさんは同じ立場の人から相談を受けた時、「たとえ、本人の思い過ごしや勘違いがあったとしても、白杖を持てない人には持てない理由があります。だからその気持ちを大切にして強要したりはしません」と話されました。  この体験談をお聞きして、私たちが、その方に役立つ情報を提供することはとても大切ですが、障害を受容できるまでの時間は、その方の環境や時期によって異なってきます。できるだけ、その方に寄り添い、その方がご自身で決断して、一歩が踏み出せるような関わり方をしていきたい、と思いました。          《報告のページ》 ○今年も学術文献録音図書の作成を受託  当館では、2005年からほぼ毎年、国立国会図書館の委託で学術文献録音図書を製作していますが、今年度も受託が決定しました。1975年に「学術文献録音テープ」としてはじまったこの事業は、国の情報保障の基盤とも言えます。今年も多くのボランティアの皆様に多大なご協力をお願いすることになりますが、どうかよろしくお願い申し上げます。 ○中央区の映画会に山田洋次監督が来場  当館が全面的に協力し、今年で5回目となる中央区バリアフリー上映会が6月7日、ヴィアーレ大阪で開催され、400人近い来場者で超満員となりました。「虹をつかむ男」を音声解説・字幕付きで上映後、行ったトークセッションでは、映画ファンの当事者が音声解説付きの映画が少ない現状などを訴えると、ゲストの山田洋次監督はバリアフリー上映への応援とともに、「今後も弱い部分をもつ人間の心に灯がともるような映画をつくっていきたい」と映画への情熱を語り、大盛況のうちに終了しました。 ○大阪西南RC様より点字プリンター寄贈 大阪西南ロータリークラブ(青木達也会長)では、創立45周年を記念して、当館に点字プリンター「ブレイルボックス」をご寄贈くださいました。最大A3判の単票紙に高速で両面印刷できる唯一の機種のため、墨字印刷物に点字を印刷し、点字使用者と墨字使用者が情報を共有することができます。貴重なご厚志に感謝し、情報発信に活用させていただきます。 ○肥後橋ちょっと“触れ歩き”番外編D  鶴見区の本部に創立者岩橋武夫の肖像とヘレン・ケラー直筆の手紙のレリーフなどを意匠した記念碑があります。本部へ行く機会がありましたら、ぜひ触って観てください。      あゆみ 【6月】 4日 近畿視情協総会 12日 専門点訳講習会エーデルコース開講 13日 専門音訳講習会東洋医学コース開講 14日 オープンデー(館内見学日) 19日〜20日 全視情協総会・新任研修会 26日 全国盲人福祉施設大会(〜27日、福岡、 竹下、久保田)      予定 【7月】 4日 専門点訳講習会エーデルコース2期 10日 ボランティア友の会世話人会 12日 オープンデー(館内見学日、要予約) 18日 視覚障害リハビリ研究発表大会(〜20日、京都、竹下、岡田、香川、松本) 29日 関西視覚障害者囲碁大会 31日 近畿視情協サービス委員会研修会      編集後記  最近最も嬉しかったのは50半ばにして娘二人を授かったことです。種明かしはフィリピンとインドネシアのダスキン研修生2人が「パパ」と呼んでくれるようになったこと。7月2日に帰国する娘たちに再会できる日が楽しみです。(竹) =ONE(ワン) BOOK(ブツク) ONE(ワン) LIFE(ライフ) 2014年7月号= 発 行 社会福祉法人日本ライトハウス      情報文化センター(館長 竹下 亘) 住 所 大阪市西区江戸堀1-13-2(〒550-0002)     TEL 06-6441-0015 FAX 06-6441-0095     E-mail info@iccb.jp 表紙絵 武部はつ子 発行日 2014年7月1日 定 価 1部100円 年間購読料1,000円