日本ライトハウス情報文化センター        「ワンブックワンライフ」2013年7月号  <表紙イラスト:(武部はつ子画)>屋台に釣り下げた風鈴が売れて笑顔で去って行くおじさん。浴衣姿の女の子は風鈴の音色を聞きながら「風鈴は買ったけど・・・」と思案げ。狐のお面を頭に乗せ、首の後ろで腕組みしながら男の子が「マンションのどこにつるすの?」と浮かない表情。 (目次) ◇掲示板 ◇センターのページ   ・シネマ・デイジーの貸出が好調なスタート!   ・点字・録音図書の製作用機器等を整備   ・「心因性視覚障害」について〜上手に心のコントロールを   ・【あの人に会いたい】アンドレアス・ハイネッケ氏 ◇報告のページ             《掲示板》 ○「日本ライトハウス展〜全国ロービジョンフェア2013」を10月5日、6日に開催  当法人では、毎年恒例の「日本ライトハウス展〜全国ロービジョンフェア」(読売光と愛の事業団共催)を10月5日(土)・6日(日)の2日間、10時から16時、大阪市中央区の難波御堂筋ビル7階(地下鉄御堂筋線なんば駅中改札から徒歩1分)で開催します。西日本最大規模の視覚障害者用具・機器展示会として、交通至便なこの会場で開催するようになって今回で3年目。全国から30社余りが参加し、多数の用具・機器を展示・一部販売するほか、今、注目のiPadのミニ体験会や、多彩な内容のミニステージを行います。ボランティアの皆様には、ぜひお知り合いの視覚障害者の方々やご家族にお知らせいただくとともに、当日のガイドボランティアとしてもご協力をお願いいたします。 ○眠っている習字道具をご寄贈ください  リハビリテーションセンターでは、習字クラブ発足に当たり、ご不要の習字道具セットを募っています。3階総務係までご連絡ください。 ○文科省より「音訳」教材の研究事業を受託  当館では、今年度、文部科学省が公募した「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業(障害のある児童生徒のための教材普及推進)」を受託。「視覚障害及び視覚認知に特性のある児童生徒に対する音声教材の供給」というテーマに関して、久保田製作部長をリーダーに、「音訳」教材の製作と児童・生徒による評価、「音訳」教材の「作成マニュアル」発行などを行うことになりました。言うまでもなく、当館の職員と録音ボランティアによって築き上げられてきた「音訳」技術は非常に優れており、教材を含め専門書の録音図書製作に威力を発揮しています。この技術を実証し、マニュアルとして形にして、さらに普及させていきたいと考えていますので、ご協力をお願いいたします。 ○7月13日(土)は「海の日」の振替休館  7月13日(土)は15日月曜指定祝日の振替のため、本館6〜8階の製作部門とアルテ分館の図書貸出は休館。サービス部門(5階サービスフロア、4階会議室、3階総務係)は開館します。             《センターのページ》 シネマ・デイジーの貸出が好調なスタート! デイジーCD1枚で、自宅で気軽に映画鑑賞を  点字・録音図書に加えて、耳で観る映画「シネマ・デイジー」の貸出を6月1日からスタートしました。音声解説にもっと手軽に接してもらうことで、バリアフリー上映会や映画館上映、テレビの解説放送番組への興味と関心が広がり、さらなる周知・普及に繋げていきたいと思います。(総務係 林田 茂)      視覚障害の方も映画やテレビをもっと楽しみたい  視覚障害の方は、活字の本を読むことができない(困難がある)から、点字や録音などの媒体で読んでいます。映画やテレビを観たいという思いも同じだと思います。  「ローマの休日」を観ても、音だけを聞いただけでは状況(内容)はわかりません。今どこにいるのか、誰がいるのか、どんな表情をしているのかなど、わからないことが沢山あります。そんな時に音声解説があれば、映像を楽しむことができ、見た人と音声解説を聞いた人とで、もっと情報を共有することができます。      シネマ・デイジーとは  そんな願いに応えるために「シネマ・デイジー」は生まれました。シネマ・デイジーは、映画のサウンドに登場人物の表情や動作、画面の様子を説明する音声解説を付けてデイジー編集したものです。視覚障害の方がよく利用されているデイジー図書の感覚で映画を楽しめます。  *作品情報、キャストの紹介、映画の本編などに簡単に移動できます。      初回は17タイトルを貸出開始  貸出で目立つのは、当館の上映会でも人気のあった「釣りバカ日誌」シリーズや「たそがれ清兵衛」「ローマの休日」など邦画・洋画の名作です。  まずは試しに聴いてみようという方もいらっしゃいますが、簡単に映画が視聴できるということで、貸出当初から沢山の方が借りられ、上記の作品は貸出待ちが続いています。今後も利用者の声をお聴きし、製作、貸出体制を整えていきます。      利用者の声  ◇昔、観たことのある映画だったが、人物の表情など細かく解説されているので、当時はあまり注意して観ていなかったところも改めて気づくことができて、より深く理解できて楽しめた。  ◇ガイドDVDと違い、パソコンで操作をしなくて映画を鑑賞できるようになったのが嬉しい。  ◇健常者のように映画に行きたくても行けないから、シネマ・デイジーができたことによって読書以外の楽しみができて嬉しい。      デイジーにすることで、もっと手軽に!  これまで当館では、映画のDVDと音声解説録音CDをセットにし、パソコンを使って視聴できるガイドDVDとして貸し出していますが、パソコンが苦手な方もおられますし、DVDは特典映像が入るなど作り方がさまざまで、視聴の仕方が難しいという声がありました。また、映画のサウンドに音声解説を付けて音だけで製作できないかという声もありました。  そのような声に応えられるように、関係者と相談を持ちながら試行錯誤の上、デイジー形式を選択しました。  デイジーであれば、図書と同じような取り扱いができ、専用の再生機も使うことができます。デイジーの利点である任意のところへ移動することもできます。聴き(使い)やすいことで、これまで音声解説に関心のなかった方にも広げていければと思っています。※ガイドDVDの製作・貸出は、これまでどおり続けていきます。     著作権について  映画のサウンドと音声解説を一緒に録音し貸し出すことは、著作権上問題がないかという問い合わせがありますが、2010年1月1日に著作権法が改正され、映画のサウンドと一緒に音声解説を付けて録音し、貸し出すことが可能になりました。(映画のサウンドだけを録音することは認められていません) 参考 全視情協編「著作権マニュアル2008新版 別冊」(2011年3月1日発行) 点字・録音図書の製作用機器等を整備 故本田栄作様のご遺族より多額のご寄附  当館では今年2月、昨年6月に亡くなられた大阪府の本田栄作様のご遺族から多額のご寄附を賜りました。年度末だったため、拙速に使うことを避け、ご厚志を最大限に活かせるよう検討と見積りを重ねた結果、この度、別表のとおり、点字・録音図書の製作用機器の整備とサービスの充実に使わせていただくことが固まりました。こうした経費は、公的補助金ではまかなうことができず、ご寄附や助成金に頼っている状態ですので、まことにありがたい限りです。  本田栄作様は、当館の職員だった森泰雄氏の親しい友人でした。お二人は同志社大学で知り合い、本田様は、視覚障害のため墨字の読めない森氏の学業をサポートされたそうです。森氏は2005年9月、61歳の若さで召天されましたが、本田様も2012年6月、68歳で逝去されました。  ご遺族の皆様は、本田様の生前のお志を大切にするため、慎重に話し合われた結果、本田様が生前親交のあった森氏の働いていた当館へ寄附し、役立てることを決めてくださいました。  当館では、本田栄作様はもちろん、ご縁をつないでくださった森泰雄氏を覚えて、この貴重なご厚志を大切に活かし、視覚障害者の方々の情報提供事業に役立てさせていただきます。  本田栄作様のご冥福をお祈りし、感謝を捧げるとともに、ご遺族の皆様に心から哀悼の意を表します。 === 故本田栄作様のご遺贈金の使途 点字製作  点字プリンター1台、点訳作業用パソコン9台 録音製作  録音、編集用パソコン 25台、テープ図書のデジタル化 300点 総務ほか  広報、音声解説パソコン 2台 貸出サービス  封筒宛名印刷機1台、広報誌用印刷機 1台、「サービス案内」発行費 2,000部、「総合目録」発行費 300部 用具機器サービス  紹介・指導用パソコン 8台、iPad 4台 地域サービス  音声解説付き映画会開催 今冬実施 === 「心因性視覚障害」について〜上手に心のコントロールを  最近、心の不調を訴える方が増える中、職場や学校などにカウンセラーが配置され、心の問題を個人だけのものとせず、社会全体で解決していこうと、丁寧に扱うようになってきました。それでも、心の不調を訴える方は増加傾向にあるようです。  そんな中、「心因性視覚障害」という記事を見かけました。眼には悪いところがないけれど、見え方に異常があるという症状のことです。視力低下、眼精疲労、色覚異常、羞明(まぶしさ)、複視、眼球運動障害、斜視などの症状が現れるのに、眼科的な治療が難しいというのです。  この心因性視覚障害は子供や更年期の女性に多く、精神面の不安定さや人間関係など原因はさまざまだそうです。このように通常の眼科的な治療ができない症状に対し、カウンセリングなどメンタル面からの治療を中心に、眼科的な治療を行う「心療眼科」が関東を中心に出来つつあります。最近増えている「心療内科」と比べるとまだ数は多くありませんが、インターネットを検索すると、耳鼻科や外科、整形外科など、「心療」という言葉が付く病院は他科にも増えてきています。今は、心と体は切り離せないということなのでしょう。ストレス社会なんだなぁと改めて感じます。  最近は子供にも多い心因性の病気。今だから多いのか、今だから分かったのか詳しいことは不明ですが、大人も子供も気分転換は必要です。アロマテラピーやヨガ、ヒーリングミュージックなど、「癒し」と言われているものを取り入れたりして、上手に心のコントロールをしていきたいものです。(サービス部 原田美貴) 【あの人に会いたい】アンドレアス・ハイネッケ氏      「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(暗闇の中の対話)」が生まれた理由(わけ)  今年4月、グランフロント大阪(JR大阪駅北側)の北館4階に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」の大阪会場がオープンしました。1988年、ドイツで哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏が発案しました。これまで世界約130都市で開催され、日本にも東京・外苑前に常設されました。しかし、初めは「暗闇がビジネスにつながるのか?」と周りの関心は低く、本格的に始動するまで10年の歳月を要したそうです。大阪オープンを記念して行われたハイネッケ氏の講演「いま、なぜ、ダイアログ・イン・ザ・ダークなのか?」から、生まれた背景についてお伝えします。(加治川千賀子)  「DIDが生まれた根底には、辛い過去と恥ずかしい経験をした時代まで戻らなければなりません」とハイネッケ氏は切り出した。ドイツ生まれで中流階級の家庭に育った13歳の頃、戦争に興味を持ち、戦闘機の模型で夢中になって遊んでいた。ドイツ人であることが誇りだった。  ある日、戦争のドキュメンタリーで、ユダヤ人が列車に積み込まれ、強制収容所に連行されていく場面が流れた。「戦争に負けたのはユダヤ人のせいでしょ!」と台所にいた母を振り返ると、声を殺して涙ぐんでいた。「母の親戚はドイツ軍に殺されたのだ」と聴かされた。一方、父はナチを支持する教育を受けており、敗戦をとても悲しんでいた。ハイネッケ氏はショックを受けるが、母の親族と交流がなかったわけも理解し、人がどのようにして優劣の差をつけていくのか、研究を始めていく。  30歳、ハイネッケ氏はラジオ局で仕事をしていた。上司から交通事故で視覚障害になった28歳の男性に「今後どのような仕事ができるのか」尋ねてくるよう指示される。訪問先で、あれこれ注意を促すハイネッケ氏をよそに、男性はまるで見えるかのように立ち居振る舞い、コーヒーを出してくれた。いろいろ勉強してきたはずなのに、「気の毒に・・・」と同情し、偏見に満ちた目で青年を見ている自分に気づく。ハイネッケ氏は恥ずかしさでいっぱいになった。   訓練を終え、ラジオ局で一緒に働くことになった彼とハイネッケ氏は明かりもない一室で居合わせることになった。自分は何も見えずお手上げだったのに、出口まで案内してくれる彼がとても頼りになった。「視覚以外の感覚を使って生活している彼らの能力を社会は認識していない。健常者と視覚障害者が暗闇の中で出会い、立場を逆転させ、自分自身の弱さや限界を実感してもらおう。この経験は新たな事実を発見し、今までと違う視点で物事を見ることになるだろう」と彼は考えた。  ハイネッケ氏は暗闇の中でグループ体験した時のエピソードを2つ、披露してくれた。「視覚障害者がビールを運んできてくれました。ビールがどこにあり、私がどこにいるのか、なぜわかるのか不思議でした。」「一緒に参加したガールフレンドが、暗闇で互いにぶつかったりするうち、私にキスを求めているのがわかりました。ところが、私が応える前に、彼女は後ずさりしてしまい、私は全く別の女性にキスをしてしまったんです。大笑いでした。」これは楽しい体験で、健常者が「障害の有無など存在しない」と感じる、いいアイデアだと確信した。こうしてDIDが誕生し、熟成していく。  DIDは視覚障害者理解や雇用と結びつけられることが多いが、ハイネッケ氏の一番のねらいではない。一方、来訪者も視覚障害の問題に関心があるというより、「ワクワク感を求める」「他者の体験でなく、自分をよりよく知るために・・・」といった点を魅力にあげているようだ。  私も東京と大阪で二度DIDを体験。暗闇には解放感があり、肩書、容姿など全く存在しない世界。ありのままの自分が存在し、初対面の人とも、コミュニケーションや触れ合いを通してお互いを思いやり、密接な人間関係が築ける空間だと思う。 ◆ダイアログ・イン・ザ・ダークとは◆ 少人数で完全に光を遮断した空間の中へ入り、アテンド(視覚障害者)が案内役となり、いろんなシーンが体験できます。視覚以外の感覚から心地よさを発見したり、コミュニケーションでお互いの気持ちを分かり合い、人の存在を大切に思えるプログラムです。             《報告のページ》 ○V友の会「ガイド体験会」に16人が参加  5月28日(火)午後1時から4時までボランティア友の会主催の「ガイド体験会」を行いました。前半は視覚障害についての話や手引きの基本を学んだ後、フェスティバルタワー地下の通路を誘導する練習をしたり、コンビニで買い物を体験しました。後半は盲導犬利用者の岡本職員から盲導犬の一生や盲導犬ユーザーと出会ったときのサポートのしかた、続いてロービジョンの竹田職員から日常生活での困り事や工夫していることが紹介されました。初めて体験をした方も「意外とできる」という印象を持たれたようで、今後、館内や行き帰りなど、いろんな場面で生かしていただければと思います。 ○参院選「公報」の音声版を全力で製作 7月下旬に予定されている参院選を前に、当館では久保田製作部長が、全国53施設で作る「参議院選挙公報音声版プロジェクト」の事務局を担当し、全国で46都道府県の比例区と24府県の選挙区の「公報」をテープとデイジーで製作。その内、7階メディア製作センターが音訳ボランティアの方々のお力を借りて、比例区(全国区)と4県の選挙区を製作します。公示から完成まで非常な短期間ですので、大変なご苦労をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。 ○5階サービス部に笹田大介を採用 当館では、5階サービス部の接客・相談担当職員として6月1日から笹田大介を採用しました。笹田職員は、美容師として7年間働いた後、視覚障害者の方との出会いからこの世界に転じ、ガイドヘルパーを1年半勤めてきました。まだ31歳という若さ。いつも笑顔のすがすがしい若者です。どうぞよろしくお願いいたします。 あゆみ 【6月】 1日 日本点字委員会総会(〜2日) 4日 見学:韓国視覚障碍人宣教連合会 5日 専門音訳講習会「図表コース」開講 8日 オープンデー(館内見学日) 18日 見学:門真市民生児童委員障害者(児)部会 20日 見学:摂津市四中地区民生児童委員協議会 22日 わろう座「びぶりおバトル」 予定 【7月】 1日 海外研修(〜3日、韓国シロアム視覚障害者福祉館:林田、松本、木田) 3日 専門音訳講習会「英語」コース開講 4日 専門点訳講習会「試験問題」コース開講 5日 見学:香港教育大学 11日 ボランティア友の会世話人会 19日 専門音訳講習会「音声解説」コース開講 20日 オープンデー(館内見学日、要予約) 23日 関西視覚障害者囲碁大会     編集後記  恵まれたことに、私の両親は共に 91歳で健在。特に母は1922年(大正11年)生まれのため、昨年来、ライトハウスの歴史と母の人生を重ねて考えることが度々あります。91年と言えば、大変長く感じますが、母の顔を見ると、それほどでもないのかなと思ったり、それだけ母の人生も長かったのかなと再認識したり。しかし、私自身はまだ37年もかかると思うと、とても到達できそうには思えないですね(竹) =ONE BOOK ONE LIFE 2013年7月号= 発行  社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センター 発行人 竹下 亘 住所  大阪市西区江戸堀1丁目13−2(〒550−0002)     TEL 06−6441−0015 FAX 06−6441−0095 発行日 2013年7月1日