ろくおん 通信 No.200号 発行日:2013年10月1日 発行:日本ライトハウス情報文化センター録音製作係 発行責任者:岡本 昇 〒550-0002 大阪市西区江戸堀1−13−2 電話 06-6441-1017(録音製作係直通)  http://www.iccb.jp/ ★聴いてわかる録音図書をつくるために(第13回)  小説を読むには  久保洋子  毎月製作される録音図書には様々な分野のものがあります。学術書など図や表、写真などの多い本も製作は難しいのですが、ただ 文章だけでも、小説はまた別の難しさがあります。  私たちの仕事は、視覚障害者の目の代わりをすることです。演劇やラジオの朗読などのように感情を込めて読むことはしません。 淡々と正しく読むのが、録音図書を読む私たちの姿勢です。しかし小説の場合、まずかぎかっこでくくられた台詞があります。かぎ かっこは読みませんので、何人かが交互に話している時、どこまでが一人の台詞かわからなくなったのでは、聞く人には内容が理解 できなくなってしまいます。  また他の文でも、一語一語に、また行間に、様々な思いが込められていて、文末のおさめ方、文初の立ち上がり方、句点読点、段 落などでの間の取り方など、文章をよりよく伝えるために様々な工夫が必要です。  録音製作ボランティアを志す方々は、皆本が好きで、中でも、日常自分では小説の類をたくさん読んでいます。  小説を読めるようになりたいというのは、音訳を志すボランティアの大部分の希望だと思います。でも、読めるかどうかの判断は、自分ではできません。他の人に判断してもらわなければなりません。  館の方では、小説を読むための勉強会を始めることを考えているというお話もあります。利用者が聞きやすい小説がたくさん製作されることを目指して、皆で音訳技術を磨いていきましょう。  そして、職員や他のボランティアに小説を読んでみたらと言われるようになれたらいいですね。 ★音訳されたものから「処理」を考える(3) 録音製作係    以下の文章は 時代小説の一部です。「ようえん」と「さこん」の会話ですが、地の文章と会話の区別、二人の会話も「間」だけでは区別がつきません。会話の部分の読み方についても、ちゃんと区別ができるような音訳表現技術が求められます。   ** 音源データより **  『無明暗殺剣』より    さこんをうちもらしたにざえもんは、ぬまずはんしもやしきにこしをすえ、かみやしきいったいにげんじゅうなけっかいをはり、しゅうへんのかんしとてきのしんにゅうにそなえている。このままでは、みずのでわのかみとひじかたぬいのすけのあんさつはかなわず、にざえもんによるぎんのこうろをつかったまつだいらさだのぶあんさつをゆるすことになる。ようえんはあせった。あせったところで、かみやしきにしのびこむのは、しににいくようなものだ。ならば、どうすればいいのだ。ようえん、らくおうまつだいらさだのぶはどこにいる。すがものしらかわはんなかやしきにいるときく すがもか どうするきだ。らくおうがいるなら、ちちぶしのびをあやつるてだれもいよう。おそらく、つけびととしてらくおうのちかくにひかえ、まもっているはずだ。それをりようするしかあるまい そんなことできるのか。できるかできぬではない。やらせるのだ (以下略) ***********************   ※ 会話の部分に「 」を付けています。 さこんをうちもらしたにざえもんは、ぬまずはんしもやしきにこしをすえ、かみやしきいったいにげんじゅうなけっかいをはり、しゅうへんのかんしとてきのしんにゅうにそなえている。  このままでは、みずのでわのかみとひじかたぬいのすけのあんさつはかなわず、にざえもんによるぎんのこうろをつかったまつだいらさだのぶあんさつをゆるすことになる。  ようえんはあせった。  「あせったところで、かみやしきにしのびこむのは、しににいくようなものだ」  「ならば、どうすればいいのだ」  「ようえん、らくおうまつだいらさだのぶはどこにいる」  「すがものしらかわはんなかやしきにいるときく」  「すがもか」  「どうするきだ」  「らくおうがいるなら、ちちぶしのびをあやつるてだれもいよう」  「おそらく、つけびととしてらくおうのちかくにひかえ、まもっているはずだ」  「それをりようするしかあるまい」  「そんなことができるのか」  「できるかできぬではない。やらせるのだ」   ★Q&Aコーナー [Q]現在、WindowsXPパソコンを使っています。来年の4月にMicrosoft社からのサポートが終了し、使えなくなると聞きました。早めにパソコンを買い換えた方がよいでしょうか? また、自宅で録音するには、どんなパソコンを買ったらよいでしょうか? 「A]2014年4月9日で、Microsoft社からのWindowsXPへのサポートが終了しますが、パソコンが使えなくなることはありません。ただ、コンピュータウイルスなどへの対策が打ち切られるため、インターネットに接続して使用するのは危険です。しばらくの間は、ウイルス対策ソフトメーカー側でサポートを継続するようですので、すぐに危険な状態にはなりませんが、4月以降は買い換えを検討した方がよいかと思います。  現在販売されているパソコンに搭載されているシステムは、Windows8が主流です。Windows8は、画面を指でタッチして操作できる機能があるため、操作方法が大きく変わりました。また、当センターが使用している録音ソフト「Recdia(レクディア)」は、Windows8に対応していません。そのため、録音製作係が今年購入するパソコンのシステムはWindows7を選択しました。  Windows7パソコンは、大型家電量販店や、パソコンメーカーのインターネット直販サイトで購入可能です。機種によっては、元々Windows8のパソコンをWindows7にダウングレードしたものがあります。これは将来、Windows8に戻すことが可能な場合もありますので、購入時に確認するとよいでしょう。  パソコンは、安価なモデルから高性能モデルまで、いろいろな価格帯があります。画面サイズが15インチのノートパソコンでは、安価なもので5万円くらいから、上は20万円以上のものまであり、録音用として使うのにどれくらいの価格のパソコンを選べばよいか、迷うところです。どの価格帯のパソコンを買っても、録音作業は行えますが、安定して動作するかどうかが違ってきます。パソコンを自動車に例えると、安いパソコンは軽自動車で、高いパソコンは高級車になります。軽自動車でも高級車でも、たくさん荷物を載せて高速で走ることはできますが、エンジンにかかる負担の差は大きくなります。長期間負担をかけ続けると、調子が悪くなったり寿命が縮んだりします。安定して録音作業ができ、5年間くらいはストレスなく使用できるパソコンの価格帯は、おおよそ10万円以上かと思います。多機能な製品よりシンプルなものの方が、故障もしにくく使いやすいです。購入時の参考にしてください。 ★チーム紹介  マトリョーシカ       2006年4月から活動を開始した“マトリョーシカ”。研修終了時の録音図書の大半がロシア関連の小冊子だったことから名付けられ、2008年度と2009年度の研修を終えた人が合流、現在15名です。  昨年末からは新体制への移行にともない徐々に先輩指導者の手を離れ、今年4月以降は自立してグループみんなで運営していくことになりました。  今まで先輩指導者に頼っていた本選びや、全体の動きなど見えていなかったこともあり右往左往。同じような人形が次々出てくる“マトリョーシカ”という名は、ひょっとしたら今の私たちを予見していたのではとさえ思われます。とはいえ、ボランティアの原点“まず自分自身が楽しむこと”をモットーにみんなで智恵を出し合い進めています。  グループの面々はいたって個性ゆたか、音訳・校正・編集・デイジー校正・モニター・プライベート録音・映画解説・週刊新潮音訳・・・ 地域でも音訳はもちろんガイドヘルパーなどなど。様々な事情で活動を休んでいる人もいますが、各々得意分野もあり、黒一点の男性も含め多種多彩(才)です。  さて写真。“冷凍保存してあったいい方の顔”で来た人もありましたが、どうでしょうか?!(文責 松井)  ★校正表から  今回は、二通りの読みがあり、意味・使い方が異なるものを挙げました。  ・開眼    かいがん… 目をあけること。[医]目が見えるようにすること    かいげん …[仏]仏道の真理をさとること  ・再建   さいけん… 団体・組織などを、もう一度つくりあげること。たてなおし    さいこん…[寺などを]もう一度建立(こんりゅう)すること  ・ 香水    こうすい… 化粧品    こうずい… [仏]仏具・道場・身体などを清めるために注ぎかける諸種の香をまぜた水、また、仏前に供える水  ・ 礼拝    れいはい… 神仏などを拝むこと。特にキリスト教で、人々がともに神に感謝する行為    らいはい… 特に仏教で、合掌したりひざまずいたりなどして拝むこと  ・ 悪性    あくせい… 病気の質の悪さ   あくしょう… 心や行いの悪さ  ・戸口    とぐち… 出入口    ここう… 戸数と人口  ・名代    なだい… 名高いこと    みょうだい… ある人の代わりをつとめること  ・ 分別    ふんべつ… 物事の是非・道理を判断すること    ぶんべつ …種類・性格などによって別々に分けること ★カリムのたれ耳噺  「新しい家」             9月1日、朝から知らない人たちがやってきて、家の中のものをどんどん持って行きます。ぼくのベッドもなくなって途方に暮れていたら、「カリム!出発するで!」とお父ちゃん。訳がわからないまま車に乗って着いた所は、新しくてきれいな家。「カリムの家やで。」と言われても、なんか実感が湧きません。その日はみんな引っ越しで忙しく、誰もぼくのことを相手にしてくれず、ふて寝! 次の日もお父ちゃんたちは片付けで忙しく、ふて寝! ああ、よく寝た!  そして次の日の朝から大変! お父ちゃんの職場までの通勤が始まったのです。バスに乗って、能勢電車と阪急電車、地下鉄に乗って、1時間半の道程です。なんでこんなに遠いところへ引っ越したのか! ぼくに一言くらい相談してほしかったわ! 朝のラッシュ時に梅田の地下を歩くのは大変なんです。「カリム!安全運転で頼む!」って言われても、ぼくはタクシーじゃありません。   でも大変なことばかりではなく、いいこともあるんです。それは、芝生の庭! ぼくが走って遊べるようにと、ドッグラン用の芝にしてくれたんです! 友達の盲導犬を招待して、一緒に走って遊ぼうかな! ★編集のひろば  ◇ 最終チェック用の棚に図書がたくさん並んでいるのは?  編集を終了したデイジー図書は、最終チェック用の棚(通称:ブックトラック)で、点検の順番待ちをします。「ブックトラックって何ですか?」と、その存在を余りご存じない方がいらっしゃる一方、「私が読み終わった図書、まだブックトラックに載っている・・・」   「せっかく急いで編集したのに、ブックトラックで足踏みしてしまっている気がする」  こんなふうに思ってやきもきしていらっしゃる方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか? あまり知られていないブックトラック事情をご紹介し、音訳者、校正者、編集者それぞれが気をつけること、工夫できることはないかを考えてみたいと思います。停滞の原因となっているものは主に以下の3つのケースです。  @ デイジー校正表(黄色)の枚数が多く、点検に時間がかかるケース  デイジー校正表によって訂正録音された箇所、再編集された箇所は、その前後の音を聴きながら、うまく修正ができているかを確か めています。最近、校正表の枚数が多 いケースが増えています。  A 再録音することで、再度、編集・最終チェックをすることになり、時間がかかるケース  再録音をお願いすることの多いケースは、  ・目次の番号と本文の見出し番号の読みが合っていない  (例:目次で「マルイチ」、本文で「イチ」)  ・製作年月日  (予定より製作完了日が遅くなった場合でも、最初に録音したままになっている)  B 編集での自己チェックが十分でないため、再編集となるケース  ・『書誌情報』や『見出し』の入力ミス  ・ワンフレーズ化されていない箇所がある  ・マーク、コメントが残っている  ・再編集のために取り込んだ音のデータが残っている など  デイジー校正表の枚数が多くなるのは、誤読やアクセント、図表や漢字の説明の仕方、 カッコの読み方などについてたくさん記入されているためです。それらがもっと早い段階で見つかり、修正が完了していれば、ブックトラックの通過がもっとスムーズになるのではないでしょうか。  ◇ 前号の話題から  ・『原本奥付』の読み方が変わります    前号(No.199)で、『原本奥付』の読み方の注意点をご紹介しましたが、その後もたくさんの質問があり、もっとシンプルな読み方にしようということになりました。   本号7ページの「録音製作係からのお知らせ」をご熟読ください。 ・ 編集校正表(ピンク)とデイジー校正表(黄色)は、編集者に返しましょう。  再編集、最終点検の必須アイテムです。必ずお返しくださるようお願いします。  ・ 編集校正を『ウェブ校正票(ウェブスタジオ・なにわ)』でしてみようと思われる編集者は、録音製作係までお申し出ください。    順次使い方を説明し、『ウェブ校正票』へ移行していただきます。                    (『ろくおん通信』編集係) ★ 録音製作係からのお知らせ 〜  『原本奥付』の読み方が変わります                                            『原本奥付』は、2012年4月に発行された『デイジー図書録音の順序』に読み方の詳細が記載され、決められた項目を、決められた順序で読むことになっています。ところが、『原本奥付』の記述は原本によって種々で、決められた順序で読むことは容易ではなく、常に、音訳者、校正者、編集者、最終チェック者それぞれの立場からのご質問、ご提案が数多く寄せられていました。  そこで、2013年10月から、「書かれている通りに読む」を基本理念とし、ISBNと定価の2項目のみ、奥付以外の場所に書かれていても読む、というシンプルな読み方に変更することになりました。  なお、『原本奥付』の読み方の変更に伴い、従来、奥付に加えて読んでいた「出版社のシリーズ名」は、今後は、最初の枠アナで読むこととします。  ボランティアのみなさまのご理解、ご協力をよろしくお願いいたします。 主な変更点  1)書かれている通りに、書かれている順序で読む。  2)但し、ISBNと定価は必ず読む(裏表紙やカバーに記載されていることが多い)  3)出版社のシリーズ名は最初の枠アナで読む。   ※『原本奥付』に書かれている項目や文言で、読むかどうか迷う場合は職員にご相談ください。 新しい読み方で読み始める時期について   ・新しく着手する図書、まだ『原本奥付』を読んでいない図書から、新しい読み方で読んでください。 ・既に読み終えている図書は、読み替えの必要はありません。 ・既に読み終えている図書の、編集/デイジー校正/最終チェックでの指摘は不要です。 ◆『デイジー図書録音の順序』の変更箇所   <2ページ>   2. 録音順序の説明   1)    *書名・副書名・著者名(編者・訳者名)     ・書名・副書名を著者より先に読む     ・著者のシリーズ名・外国語の原題・出版社のシリーズ名は、書名・副書名の後に読む     ・シリーズ名は書誌カードで確認する      ・書名はルビを優先して読む     ・書名の字の説明が必要な時には書名の後で入れる(著者名の前)       <7ページ>   11)原本奥付 …… 原本奥付おわり     ≪基本≫ 墨字原本の最後にある奥付を、記載してある順序で記載通りに読む     *但し、以下の項目は記載がなくても、奥付の最後に必ず読む     ・ISBN      ・定価    *以下のものは省略する     A.アルファベットで書かれた著作権者     B.落丁、乱丁の断わり     C.発行者、印刷所、製本所     D.装幀者など   *「刷」が複数ある場合、第1刷と最後の刷を読む(すべてを読む必要はありません)  ◆『デイジー図書編集のルール』の変更箇所   <5ページ目>   11)原本奥付……原本奥付終わり    *『原本奥付』に関するチェック項目は不要となります ★館からのお知らせ     10月5日(土)は休館、10月12日(土)・11月2日(土)は開室します  ・10月5日(土)は、『日本ライトハウス展』開催のため、全館休館です。  ・10月12日(土)・11月2日(土)は、それぞれ翌々日が祝日のため、通常は振替休日になりますが、土曜日の休みが多くなるため、開室いたします。