日本ライトハウス情報文化センター        「ワンブックワンライフ」2015年11月号  <表紙イラスト:(武部はつ子画)> どんぐりの季節。男の子がそのどんぐりでやじろべえを作り、女の子の前で人差し指に乗せて遊んでいる。やじろべえがおっとっと・・・と傾きだすが落ちない。「バランス感覚ええでしょ?」と男の子。女の子も笑顔で拍手。   (目次) ◇掲示板 ◇センターのページ ・さらに前へ!“情報共有社会”の実現を目指して 日本点字誕生125年の到達点 ◇報告のページ  ≪掲示板≫ ○「視覚的資料と専門書の音訳技術研修会」を全国4ヶ所で開催  当館では、関西をはじめ全国各地の音訳ボランティアを対象とした「視覚障害者向け録音図書製作のための視覚的資料および専門書の音訳技術研修会」(2日連続)を企画し、今年度後半、大阪市を皮切りに仙台市、福岡市、東京都の4ヶ所で開催します。今日、電子書籍やオーディオブックの出版が広がる中、音訳ボランティアと録音図書に期待される役割は、図、表、グラフ、イラスト、写真等の視覚的資料、および教科書・教材をはじめとする専門書の比重が増していくことが予測されます。そこで、当館の録音製作で培われてきた音訳技術を各地の音訳ボランティアと共有し、専門音訳者の養成と専門音訳資料の拡大を図ることを目的として、この研修会を行います。講師は、当館音訳ボランティアの久保洋子、木村純子、福島博子の3氏と、久保田文部長、竹下館長。大阪は12月10日〜11日、当館で開催。申込は11月初旬まで受けつけていますので、応募要項を当館電子書籍係(06-6441-1035)の瀧沢までお申し込みください。 ○近畿視情協V研修会で竹下館長が講演  近畿視情協(近畿視覚障害者情報サービス研究協議会)の今年度ボランティア・職員研修会が12月2日(水)10時〜16時、玉水記念館で開催されます。午前は、当館竹下館長の講演「電子書籍時代に求められるボランティアの役割」。午後は分科会で、点訳は「点字サイン」について、録音は「対面サービス」などについて研修。参加無料。希望者は各係の職員へお申し込み下さい。 ○盲導犬訓練所の施設見学会、残席わずか!  ボランティア友の会では、日本ライトハウス盲導犬訓練所(千早赤阪村)の施設見学会の参加者を募集中。貸切バスで往復できる滅多にない機会ですので、今すぐお申し込み下さい。  日時 11月16日(月)10:00〜15:00  集合 9:50、ろうきん前(肥後橋10番出口)  参加費 3,000円(バス代、お弁当代)  申込 至急、当館3階総務係(06-6441-0015)まで。定員になり次第締切となります。 ○11月の休館について   11月3日(火)=祝日のため全館休館します。その他は暦通りです。 ≪センターのページ≫ さらに前へ!“情報共有社会”の実現を目指して 日本点字誕生125年の到達点  視覚障害者にとって“唯一の文字”と言える点字。日本の点字が1890(明治23)年に翻案されてから今年の11月1日で125年を迎えます。日本点字誕生125周年を記念して、点字黎明期の逸話をご紹介し、点字に込められた思いと果たした役割、そしてこれからの目標を共に考えたいと思います。(館長 竹下 亘) 点字は盲人の目なり〜点字翻案に込めた思い  フランスのルイ・ブライユが1825年に考案した点字を元に、石川倉次による日本点字案が採択されたのは1890(明治23)年11月1日、東京盲唖学校の点字選定会議においてでした。日本点字誕生のドラマは他に譲ることとして、ここで紹介したいのは、石川倉次が点字の翻案に込めた思いです。  点字翻案の約50年後、倉次はこう回顧しています。「(明治22年末、他の点字案を検討した結果)、この点字こそ實に視覚を欠ける盲人にとりての目でなければならないと考へた。されば点字苦心の過程に於て六点を目(メ)に連結して考へて行った。」 さらに「点字は盲人の目なりと考へ日本点字五十音図を組織した余は其後が日の黒字及び盲の下の目の白地に類縁あるを知り、…『日本点字は日本の盲人の目なり』とするに至った。」(注1) === (注1)「点字発達史」(大河原欽吾著、培風館、1937年発行)161−162頁。 *「日の黒字及び盲の下の目の白地に類縁あるを知り」の図解 (図の説明:日の各線の交点が6つの点が重なる。目の白地の部分に6つの点が入る) === つまり、日本点字は誕生前から視覚障害者の目の代わりを目指し、熟慮の末に生み出されたのです。そして、倉次の夢はこれで終わらなかったのですが、それは後ほどご紹介しましょう。 点字図書により盲人の自立と社会参加を 点字誕生後、明治から大正、昭和初期にかけて、視覚障害者にとって点字図書がいかに重要と考えられていたかは、1906年(明治39)年頃、好本(よしもと)督(ただす)(注2)を中心に、当時の盲界のそうそうたる指導者たちにより結成された「日本盲人會」の趣意書に見ることができます。 === (注2)「盲人福祉の歴史」(森田昭二著、明石書店、2015年発行)参照。 好本督は神戸生まれ。生来弱視で英国オックスフォード大学に留学。早稲田大学英語講師を経て、英国で商事会社を経営し、岩橋武夫や中村京太郎(「点字毎日」初代編集長)など日本の視覚障害者と文化活動を支援した。  著者の森田昭二氏は80歳。高校の国語教諭を視力低下のため50代で退職後、全盲となり、65歳で日ラリハセンに入り、点字を習得して関西学院大学修士・博士課程へ入学。点字と墨字を駆使し、日本の盲人史を研究し、2014年博士号を取得された。 ===   「この会は次の如き計画を漸次に実行して、その目的を遂げる…。/盲人用書籍貸出所を作ること/盲人用書籍を発行して、できるだけ易く、盲人に供給すること/盲人用器具を製作して、…盲人の需要に応ずること/盲人雑誌を発行すること/就学し得ざる盲人の為に講義録を発行すること。  幹事 奥村三策、好本督、左近允孝之進  評議員 鳥居嘉三郎、留岡幸助、谷口富二郎、山縣悌三郎、山縣五十雄、古川太四郎、小西信八、五代五兵衛、森巻耳」  点字図書の発行・貸出・頒布によって視覚障害者の教育と就労、今日で言えば自立と社会参加を進めようという高邁な理想。同会自体はその後発展しませんでしたが、同じ志を持つ盲人と協働者たちは各地で点字出版に取り組み、個々に点字写本に励み、教科書や教養書、エスペラント学習書、点字新聞などを作り出していきました。日本ライトハウスの創始者である岩橋武夫が1922(大正11)年、エスペラントの学習書を点字出版したのも、この流れの中でのことだったのです。 点訳奉仕活動の嚆矢〜自助を支える奉仕  明治・大正期、点訳・点字写本に携わった晴眼者がどの程度いたかは、勉強不足で未解明ですが、組織的な奉仕活動として点訳活動を行ったのは1933(昭和8)年頃、岩橋武夫の教友が始めた「点字写本友の会」(F・B・S)が嚆矢だと思われます。昭和12年、大阪朝日新聞の記事が残っています。 写真:1936(昭和11)年頃、ライト・ハウスでの点訳風景  「闇に光る“復活”/盲人に贈る職業婦人の優しい心/トルストイの名作を点字に翻訳=…大阪の岩橋武夫氏を中心とする祈りの集ひ「霊交会」の有志数名がF・B・S(点字写本友の会)を組織したのは昭和八年頃だったが、その後も…愛の奉仕にたづさはる人々に松野ひでさん、甲斐登女子さん、垂井勝子さんなどのグループがある、…翻訳されたものは製本され住吉区の盲人の家「ライト・ハウス」に寄贈されてゐるが、このほどそのライブラリーにすばらしい財産を加へたといふのはいはゆる『復活』の完成で点訳者松野ひでさん(三十五年)大阪貯金支局天王寺分室経理係につとめるまだ独身の女性である。松野さんは点字法をおぼえてからこれまでロマンローランの「トルストイ論」…など点訳したが、さる昭和九年から難物といはれる大作中村白葉氏訳の「復活」にとりかかり、…毎夜手打ちの点字器ととっくみ、一日四ページくらゐ、…根気よくつづけ三年がかりで二千四百ページ、全十四冊の膨大な点訳をみごとに完成したのである……松野さんは一日職場ではにかみながら語つた。新聞に出ると私困りますわ、別に奉仕といふほどの気もちもありません、ただ盲人の人たちによんでいただければと思ったのです」  この点訳奉仕者の姿は、80年経った今日も変わらない気がします。盲人自身の自助努力とそれを支えるボランティアの奉仕。その協働作業はその後も継承され、今日もなお生き続けています。 明盲共通字〜晴盲の隔てを取り除くために  最後にご紹介したいのが、石川倉次が点字翻案後8年目に考案し、85歳で没するまで普及を夢見て、自身の日記にも使い続けた「明盲共通字」です。  「明盲共通字」とは、下図のように点字の点を線で結び、筆で書きやすく、目で見やすくしたものです。私が25年前、発見した石川倉次の直筆原稿「明盲共通字(世界唯一ノ完全新字)ノ効用」(大正期の執筆と推測される)には、こうあります。  図:明盲共通字一覧表。明治31年公布の「日本訓盲字一覧」の点字をなぞって、線字に直したもの。  「明盲共通字トハ、明者ト盲人トノ間ニ通ズル文字ト言ウ意味デ名ヅケタモノデ…、ワレワレガ常ニコレヲ用イテ居ル事ニスレバ、俄(にわか)ニ盲人トナル事ガアッテモ、アワテテ盲用ノ点字ヲ習ハヌデモヨイシ、盲人カラ来タ点字ノ手紙ナドモ目デ見テスグニヨム事ガデキル。明者即チ常人・聾唖ト盲人トノ間ニモ直接ニ通信シ合ウ事ガデキルシ、盲デ聾ヲ兼ネタ者ニモ、触覚ニ依テタヤスク思想ヲ通ジ、自由ニヨミカキヲ授ケル事ガデキル。…コノ文字即チ点字ト殆ド同形ノ新字コソ、…真ニ万能具備ノ完全文字ト云フベキデアルト思フ。」  結語は少し大げさかも知れません。しかし石川倉次は、盲人の目として点字を翻案するにとどまらず、晴眼者と盲人、聾唖者、さらに盲ろう者の間の隔て(障壁)を取り除くために、すべての人が共有できる文字を作り、共用する社会を夢見たのです。その理想は今なお輝いていると思います。 125年目の到達点〜情報共有社会を目指して  戦後、ヘレン・ケラーの2度目の来日を機に、障害者福祉は大きく前進し、視覚障害者の情報環境も昭和30年代から飛躍的な発展と拡大を遂げました。紙幅がないため、短兵急な結論で恐縮ですが、昨年2014年1月、わが国で批准された「障害者権利条約」は、視覚障害者の情報利用(保障)においても大きな到達点と言えるものでした。  同条約では、まず「意思疎通」(情報共有)の手段を「言語、文字の表示、点字、触覚、拡大文字、利用しやすいマルチメディア、筆記、音声、平易な言葉、朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用しやすい情報通信機器を含む)」と定義し、障害者は自らが選択する手段で情報を利用できることを謳っています。  そして、「第二十一条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」では、「(a)障害者に対し、様々な種類の障害に相応した利用しやすい様式及び機器により、適時に、かつ、追加の費用を伴わず、一般公衆向けの情報を提供すること」などが定められています。これこそは、日本の視覚障害者と協働者が点字誕生以来125年間、身を賭し、力を合わせて切り開き、築き上げてきた情報獲得の成果と言っても過言ではないと思います。  しかし、理念は確立したものの、実社会・実生活において、視覚障害者をはじめとする読書障害者の情報環境にはまだまだ多くの障壁があります。すべての人が情報を共有できる“情報共有社会”の実現を目指して、共に歩んでいきましょう。 ≪報告のページ≫ ○日本ライトハウス展に過去最多の1,386人  「日本ライトハウス展〜全国ロービジョンフェア2015」(読売光と愛の事業団共催)を10月17・18日、難波御堂筋ビルで開催したところ、2日間で1,386人のお客様が来場され、大盛況となりました。この来場者数は2011年に同会場で再開してから最多。今回は38ブースで数百点の用具・機器が展示されたほか、外出支援機器やiPhoneの最新アプリの体験、注目の医療情報や当事者団体のミニステージも大いに賑わいました。詳しい報告は次号に掲載しますが、特にご後援くださった皆様と、当日お手伝いくださったボランティアの皆様(本誌7頁にお名前を掲載)に心から御礼申し上げます。 ○視覚障害者情報施設大会が新潟で開催  全視情協(全国視覚障害者情報提供施設協会、99施設・団体)の第41回全国大会が10月8日〜9日、新潟市で開かれ、全国から170人が参加しました(当館からは竹下、岡田、久保田、林田、瀧沢が参加)。今回は、情報提供施設(点字図書館)が各地の眼科医療機関やリハビリテーション施設、視覚支援学校、NPO団体などとネットワークを組み、中途視覚障害者等に対していち早く、きめ細かい支援を展開する取り組みについて報告と検討が行われたほか、録音図書とテキストデイジーの質の向上の方策などを検討。大会決議として、サピエの維持・管理費に対する継続的な公費助成、デイジープレイヤーの安定的供給と低廉な費用での入手支援、読書障害者も対象に含めた著作権法改正、電子書籍のEPUBもしくはデイジー形式での出版推進などを採択しました。 あゆみ 【10月】 1日 見学:福島県立盲学校、静岡盲学校 8日 全視情協大会(〜9日、新潟市:竹下、岡田、久保田、林田、瀧沢) 13日 音訳V養成講座A火曜コース開講 14日 音訳V養成講座A水曜コース開講 17日 日本ライトハウス展(〜18日) 24日 オープンデー(館内見学日) 31日 わろう座映画体験会「黄昏」 予定 【11月】 5日 ボランティア友の会世話人会 6日 専門音訳講習会・音声表現技術コース開講(12日、18日、24日の全4日) 7日 ライトハウス祭り(鶴見事業所) 10日 対面リーディングボランティアの集い 14日 オープンデー(館内見学日、要予約) 21日 日本ライトハウスバリアフリー映画会「マエストロ!」(玉水記念館) 編集後記 NHK朝の連続テレビ小説「あさが 来た」をご覧になっていますか?モデルとなった広岡浅子氏は当館東隣の大同生命の創業者の一人。同社2階のメモリアルホールでは目下、特別展示「大同生命の源流“加島屋(かじまや)と広岡浅子”」を開催中です。浅子氏は、当館南隣の敷地に肖像のレリーフが残る澤山保羅(ぽうろ)氏(梅花女学校の創立者で、日本初の牧師)とも縁があり、肥後橋はなかなか歴史豊かな土地なのですね。展示会は火〜土曜日開催。入場無料。ご来館のついでにぜひお立ち寄り下さい。(竹) =ONE BOOK ONE LIFE 2015年11月号= 発 行 社会福祉法人日本ライトハウス      情報文化センター(館長 竹下 亘) 住 所 大阪市西区江戸堀1-13-2(〒550-0002)     TEL 06-6441-0015 FAX 06-6441-0095     E-mail info@iccb.jp 表紙絵 武部はつ子 発行日 2015年11月1日