日本ライトハウス情報文化センター        「ワンブックワンライフ」2016年2月号  <表紙イラスト:(武部はつ子画)> 雪が舞う中、かまくらの中で火鉢にあたっている男の子と女の子。女の子が手の甲を前にして、「雪おんながさあ〜」というと、男の子が握り拳を口元に当てて「やだ〜」と汗をかいている。かまくらの外では長い髪に着物姿の雪おんなが口を袖口でかくしながら「あら、私のこと・・・?」と中を覗き込んでいる。   (目次) ◇掲示板 ◇センターのページ ・電子書籍と音声解説の製作・提供をさらに推進 公益財団法人一ツ橋綜合財団のご助成で    ・音訳教材データベースを開発し、児童・生徒にモニタリング 文部科学省委託「音声教材調査研究事業」2年目の到達点 ◇ボランティアのページ    ・録音製作ボランティアの森和子さんがご逝去 ◇報告のページ  ≪掲示板≫ ○3月8日(火)はボランティア交流会に!  毎年、当館のボランティアの方々への日頃の感謝と交流の場として開催しているボランティア交流会と友の会総会。今年度は2部構成で、視覚障害者の方々が普段使われている機器や、製作部での図書製作作業の様子をご紹介した後、ゲストに視覚障害者の方々を迎え、落語やハーモニカ演奏を披露して頂きます。ボランティア活動歴30年・20年以上の方々への感謝状贈呈やバザーなども行います。今回はおそらく初めての火曜日開催ですので、ぜひご参加ください。  日時 3月8日(火)午前10時〜午後3時  会場 玉水記念館(肥後橋駅8番出口すぐ)  会費 1,000円(お弁当代)  10:00 感謝式典  10:30 当館のサービス部・製作部の紹介      ゲストによる落語・ハーモニカ演奏  12:00 ボランティア友の会総会  12:30 昼食・歓談、受賞者インタビュー 13:40 館より報告  14:00 バザー(物品の提供をお願いします)  参加申込は3階総務係(電話06-6441-0015)で受付中です。当日は全館休館になります。 ○専門音訳講習会デイジー編集コース基礎編 毎日新聞大阪社会事業団との共催で専門音訳講習会・デイジー編集基礎編を開講します。デイジー編集の基礎知識を学び、編集技術を実習していただく講習会です。  日時 3月18日(金)・19日(土)2日間連続 10時〜17時  対象 パソコンの基本操作が可能で、これからデイジー編集を始める方  定員 8人  参加費 1,000円  選考試験 3月4日(金)13時30分から  お申込は録音製作係(電話06-6441-1017)へ要項請求の上、2月19日(金)までにどうぞ。 ○東京で活躍する視覚障害女性2人の講演会  「語り部」として活躍する川島昭恵さんと、玩具会社社員として「共遊玩具」の普及に携わった高橋玲子さんの講演会が2月27日(土)13:30〜16:00、当館4階で開催。入場無料。申込不要。 ○2月11日(木)は休館 祝日のため全館休館させていただきます。 ≪センターのページ≫ 電子書籍と音声解説の製作・提供をさらに推進 公益財団法人一ツ橋綜合財団のご助成で  当館では、公益財団法人一ツ橋綜合財団より2005年度から毎年多額のご助成をいただき、マルチメディアデイジーやテキストデイジー図書、音声解説とシネマ・デイジーなどの製作・提供を行っています。製作に当たっては、電子書籍関係40人、音声解説関係21人という数多くのボランティアの皆様にご協力いただき、今年度はマルチメディアデイジー(以下、本文ではMMD)の教科書14タイトル(以下tl)、絵本や一般書11tl、テキストデイジー51tl、テキストデータ56tl、映画DVD用音声解説8tl、シネマ・デイジー8tl、映画会用音声解説4tlが完成(2016年1月末現在)しました。今回はその中から、MMD図書と音声解説の製作作業をご紹介します。(総務係 加治川千賀子) マルチメディアデイジー図書の製作 (1)編集の打ち合せ  パソコンやiPadの画面でわかりやすく表示できるよう、どのようにレイアウトするかなど、ボランティアと職員が事前に打ち合せをします。 (2)原本をスキャンしてデータ化  原本を裁断し、スキャナーを使ってパソコンに画像データとして取込みます。  写真は手作業型(自動的にスキャンする機種もあります。) (3)文章・画像・音声等、素材データ製作   スキャンした画像から専用ソフトを使って文字データに変換、原本と照合して間違いを修正します。また、絵やグラフなどの図も見やすいレイアウトを考え、iPad等で表示するのに適したサイズに調整、音声の収録も行います。 (4)文章・画像・音声データを編集  MMD製作ソフト「PLEXTALK Producer(プレクストークプロデューサー)」を使用して、目次や頁付けなどの編集を行い、文章や画像と音声を同期。読書する時に、画面に表示されたページの中で、ハイライトしている文章を音声で読み上げるように編集して完成となります。  完成データは利用者に直接お送りするとともに、利用登録者(読書障害のある方)は、当館の専用サーバーからダウンロードできます。 音声解説の製作 (1)セリフ起こしと調査・情報収集  映画のセリフを起こし、解説台本の基となるデータを作ります。また作品のHPやパンフ、原作本などで下調べを念入りに行います。 (2)解説台本の作成 解説台本の作成では、いつ、どこで、誰が、何をしているのかという場面の様子を説明する“解説文”を作っていきます。セリフに重ならないように解説文を作る必要があるため、優先順位や言葉の選び方も重要です。通常3〜4人で製作を担当し、複数の目で校正・確認作業を行い、その場に適した表現や呼び方、固有名詞を整えていきます。 (3)音声解説の録音  解説のナレーションでは、「音訳」の技術を基本とし、映画を観ながら、映画の雰囲気に溶け込めるような録音を心がけています。 (4)主音声と解説音源の編集   編集ソフトを用いて、主音声と解説音源のタイミングや音量を調整する編集を行います。音量については、映画の音(背景音など)が大きすぎると音声解説が聞こえにくくなり、逆だと音声解説が目立ち過ぎるので、センスと細かな調整作業が求められます。 (5)モニター会の開催  当館では、視覚障害利用者と製作担当者を交えたモニター会を行っています。モニター会では、解説がイメージ通りに伝わっているか、誤解や違和感がないかなどを確認します。時として製作側が気にならなかった音が気になったり、解説がなくても正しく伝わっていることなどに気づかされることもあります。モニター会後、必要なところは修正を加えるほか、その後の製作にも活かしていきます。 (6)シネマ・デイジー、ガイドCD化  完成後は一部映画会で上映する他、デイジー編集ソフトでさらに編集し、「音声解説CD付き映画DVD」やシネマ・デイジーとして所蔵、貸し出すとともに、サピエ図書館に登録。多くの方々に映画の楽しみを広げています。 音訳教材データベースを開発し、児童・生徒にモニタリング     文部科学省委託「音声教材調査研究事業」2年目の到達点  当館では、平成26年度から文部科学省の委託により「音声教材の効率的な製作方法等に関する調査研究事業」を行っています。これは、視覚障害児童生徒が点字教科書・拡大教科書と併用して使用する音訳教材を提供するためのデータベースの開発がメインですが、同時に、音声で聴いて理解しやすい教材製作を広めるために、「視覚的資料および専門書の音訳技術」を普及することも目指しています。2年目を迎えた本事業の今年度の成果をご紹介します。(製作部長 久保田 文)  視覚障害児童・生徒にとって、視力に応じて点字や拡大教科書の本文を読むことはそれほど困難ではありませんが、図、表、グラフなどの視覚的資料は、教科によっても非常にわかりにくい、読みにくい場合が多々あります。  今回の研究事業の前年、25年度に当館が受託した文科省研究事業では、点字・拡大教科書と音訳教材の併用が、視覚的資料の理解に有用であることがわかりました。  その結果に基づいて、今回の研究事業では、教科書の視覚的資料のみを音訳したデータベースを作って、インターネットに繋ぎ、教師や生徒本人が、学年、教科、出版社、ページ番号、視覚的資料のタイトル等で検索して、必要な視覚的資料の音訳データをダウンロードできるシステム作りに取り組みました。  このデータベースの開発は3年計画です。2年目の今年は、音訳者が音訳したデータをアップロードし、教師がそのデータをダウンロードして生徒に提供。生徒が実際に音訳教材と点字・拡大教科書と併用するモニタリングを行いました。モニタリングに協力してくれた生徒は、地域の学校に通う中学生2人、盲学校の高等部の生徒2人です。  地域の学校に通い、拡大教科書を使っている中学生は、これまでに録音図書を聴いたことはなく、音声で教科書を聞くのも初めてという生徒でしたが、「図のタイトルの前に拡大教科書のページをアナウンスしていたので、どのページを見れば良いかすぐにわかった」「特に地図は、東から順に読みますなどとアナウンスしてからゆっくり読んでいたので、目で追えた」「左右の目盛りから値を見なければならないグラフも、音声の説明が欲しい」などと評価。インクルーシブ教育を受けている視覚障害児童・生徒にとって、音訳教材の併用は特に有効であることが改めて実感されました。  この他にも、モニタリングの結果を受けて、高校の教科書は内容が専門的で高度になるため、音訳者が内容を理解していないと読者は意味が理解できないということ。しかし、専門知識を持つ音訳者の数は非常に少ないため、今後、視覚的資料の音訳教材を提供していくには、図表が示すポイントの説明は専門家が担当し、それを音訳者が分かりやすく伝えるといった連携が必要であることがわかりました。  こうした結果に基づいて、次年度は、専門家と音訳者とのネットワークを目指すとともに、視覚的資料の音訳技術の普及に力を入れていきたいと考えています。 今年度開発した音訳教材データベースの画面 ≪ボランティアのページ≫           録音製作ボランティアの森和子さんがご逝去  録音製作係のボランティア森和子さんが1月1日、ご病気のため病院で逝去されました。75歳でした。森さんは当館のボランティアを35年間続けてくださり、亡くなる一月前の昨年11月末まで毎日のように来館され、いつも6階録音製作係北側のデスクで音訳図書の校正・編集をされていました。突然の訃報に、ボランティアの方々はもちろん、職員も深い悲しみと、ポッカリ穴の空いたような寂しさを感じています。  森さんは1980年、当館の音訳講習会を修了後、校正・編集専門に活動。1994年第7回専門音訳講習会として片山一夫先生の「東洋医学コース」を開講以来、東洋医学チームの中心メンバーとして活躍されました。1997年には鉄道弘済会西日本地区表彰・校正の部で表彰。当館からも活動20年と30年の感謝状を差し上げました。  録音図書の校正・編集では、東洋医学の専門書を中心に「臨床経穴学」「蔵珍要編」「街道をゆく」「司馬遼太郎が考えたこと」など、優に500タイトルを超える多種多様な図書を完成してくださいました。そのため本誌の感謝報告には、ほぼ毎号お名前を連ねられ、本号にもお名前が載っています。また、ここ数年は蔵書製作と並行して江戸時代の医師岡本(おかもと)一抱子(いっぽうし)の古典「病因指南」の校正・編集に取り組まれ、昨年12月に入院された時もその本とPCをベッドに持ち込まれたそうです。  1月中旬、ご挨拶に来られたお妹様とお嬢様によると、森さんは2014年3月にご病気が分かりましたが、誰にも口外せず、治療も最低限にして、普段通りの生活を送ることを望まれ、当館の活動も続けられました。昨年11月末に体調が悪化し、12月に入院。1月1日夜、ご家族に見守られて、安らかに息をひきとられたそうです。ご葬儀もご本人のご遺志で誰にも知らせず、ご家族だけで営まれ、可愛がっておられた親戚の小さな子ども達の楽器演奏に送られて旅立たれたそうです。  人生の後半生をボランティア活動に尽くしてくださった森和子さんに心から感謝申し上げるとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。 ≪報告のページ≫ ○マラケシュ条約と差別解消法を研修  近畿視情協の2015年度職員研修会が1月27日当館で開かれ、45人が参加。視覚障害者等の情報環境の改善に取り組まれている宇野和博氏(筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)の講演「マラケシュ条約と著作権法改正によって変わるもの〜読書のバリアフリー化に関する現状と今後の課題」と、今年の4月施行される障害者差別解消法に関する情報提供「図書館における合理的配慮」が行われ、今後の方向性を学びました。 ○今年度点訳ボランティア養成講習会が開講  今年度の点訳ボランティア養成講習会が1月8日開講しました。今回は応募者が少なかったため10月の開講を延期し、応募者11人から適性試験の結果6人の方に受講していただきました。講師は奥野真里主任で7月まで行います。全員無事に修了され、点訳活動を始められるよう期待します。 ○赤松成郎様が録音切替用スイッチをご寄贈  録音スタジオの中と外を繋ぐ録音切替用のスイッチが次々に壊れて困っていたところ、当館職員の旧友である赤松成郎さんが実費で20個製作し、ご寄贈くださいました。これまでの既製品は壊れやすかったので、堅牢で大助かりです。心からお礼申し上げます。 あゆみ 【1月】 5日 仕事始め 6日 ボランティア活動再開 7日 ボランティア友の会世話人会 8日 点訳ボランティア養成講習会開講 9日 振替休館(用具、会議室、総務は営業) 21日 見学:香港盲人輔導會 27日 近畿視情協職員研修会 28日 視覚的資料および専門書の音訳技術研修会・宮城会場(〜29日) 予定 【2月】 12日 専門音訳講習会デイジー編集コース・応用編(17日) 13日 オープンデー(館内見学日、要予約) 20日 講演会「ひろがれ!点字」 25日 視覚的資料および専門書の音訳技術研修会・福岡会場(〜26日) 26日 わろう座映画体験会 編集後記 ご逝去の一月前までボランティア を続け、病院にまで校正作業を持ち込まれた森和子さんの生き様には頭が下がりますが、当館のボランティアの皆さんが高齢でも凛としておられることには敬服します。先月号に掲載した板谷照美さんの厚労大臣表彰の記事中、ボランティア活動の開始年を誤ったところ、「私が始めたのは1971年からで45年間に過ぎないのに、嘘をついて多く言ったみたいで恥ずかしい」というご指摘を受けました。社会人30年に過ぎない私には45年ははるかかなたですが、少しでも後を追いたいと思います。(竹) =ONE BOOK ONE LIFE 2016年2月号= 発 行 社会福祉法人日本ライトハウス      情報文化センター(館長 竹下 亘) 住 所 大阪市西区江戸堀1-13-2(〒550-0002)     TEL 06-6441-0015 FAX 06-6441-0095     E-mail info@iccb.jp 表紙絵 武部はつ子 発行日 2016年2月1日