日本ライトハウス情報文化センター   「ワンブックワンライフ」2022年2月号   <<表紙イラスト>> おばあさんと女の子が火鉢を囲んで座っています。 編み物をしていたおばあさんはうたた寝をして船をこいでいます。 女の子は「SHI……静かにね…」と毛糸玉にじゃれている縞模様の猫に注意しています。 犬のポチも毛糸を加えて「うとうと幸せ…」とおばあさんの様子を見ています。    <<目次>>   ●掲示板(1頁)   ●センターの頁(2〜4頁)   ●感謝報告(5〜7頁、別ファイル)   ●報告の頁(8頁)  以下は本文です。   ●掲示板(1頁)  ◆来館時はより一層の感染対策にご協力下さい  昨年末から改めて新型コロナウイルスの感染が急拡大しています。事態は日を追って変化していますが、当館では、原則として国の緊急事態宣言や大阪府の明確な指導がない限り、感染対策を徹底しながら、これまで通りのボランティア活動とサービスを継続する予定です。  来館される方にはこれまで通りの感染対策に加えて、入館時の体温測定(非接触型体温計で測定)と不織布マスクの着用(お持ちでない方には館から提供)をお願いします。ぜひご協力下さい。  ◆ボランティア交流会の最終決定を2月18日に  2021年度のボランティア交流会の申込受付を先月から始めています。今回は3月10日(木)13時〜16時、玉水記念館で開催。定員を2分の1以下に抑えるなど感染対策を行いながら、活動歴20年・30年以上のボランティアの方々への感謝式典と箏曲家竹内一(はじめ)氏の演奏会を行う予定ですが、新型コロナウイルスの感染状況により、予定通り開催できるかどうか判断できません。そこで、2月15日に臨時のボランティア世話人会を開き、オンライン開催や延期も視野に入れて検討を行います。最終決定の内容は、2月18日(金)に発表しますので、参加申込の上、当館のホームページ(http://www.lighthouse.or.jp/iccb/)か、各係のMLでご確認ください。ご希望の方には、個別に電話等でご連絡します。  ◆バリアフリー映画「もうろうをいきる」をオンラインで  早川福祉会館点字図書室のボランティア交流会が2月19日(土)14時〜15時40分、同館会議室とオンライン(YouTube)で開催されます。目と耳に障がいのある盲ろう者を全国各地に訪ね、その日常生活と通訳介助者とのコミュニケーションを追ったドキュメンタリー映画の上映です(91分、音声解説・日本語字幕付)。当館ボランティアのオンライン視聴も歓迎。申込は、2月14日(月)までに、氏名と所属を明記し、Eメールで同館(hayakawa-f@k2.dion.ne.jp)まで。  ◆2月の休館・休室について  2月10日(第2木曜)=エンジョイ!グッズサロンと図書貸出は書庫・在庫整理日のため休室。  2月11日(金・祝)=全館休館  2月23日(水・祝)=全館休館    <<センターの頁>>(2〜4頁)   ●AIには出来ない!意味内容を伝える点訳・音訳・電子書籍   求められるのは人の知恵と工夫 副館長 福井 哲也  当館では昨年12月、特別講演会「読書バリアフリー法とボランティア活動」を開催しました。当日参加できなかった方からは、特に福井哲也副館長(点字情報技術センター所長)の講演への関心が高かったので、福井副館長が講演を元に一から書き下ろした原稿を掲載します。(竹下)  ◆AIはすごい?  コンピュータの技術革新は、私たちの社会に大きな変化をもたらしています。今のブームは人工知能(AI)です。2015年、AIは将棋のプロ棋士を凌駕し、翌年囲碁でも人間はAIに勝てなくなったそうです。顔認証も、車の自動運転も、気象予報も、AIが新しい世界を開くといわれます。ならば、私たちの読書にも新たな光が差すでしょうか。AIの目覚ましい発達により、点訳や音訳が機械任せで正確にできる時代が間もなくやって来ると信じる人は多いようですが、私は道は非常に遠いと感じています。  パソコンと共に使用する音声合成装置が世に出てもうすぐ40年。初期の頃はいわゆるロボット声で、耳ざわりな機械音だったのに対し、最近の音声エンジンは、とても人間らしくしゃべるようになりました。その点では格段の進歩が見られるのですが、漢字の読み違いや奇妙なイントネーションといった面では、声の綺麗さとは裏腹に改善の勢いが鈍っているのではないかと思います。自動点訳も、漢字の読みの難しさはもとより、平仮名が続いても語の切り分けにつまずきがち。記号類の処理とレイアウトも、人間がかなり手を入れないと人様に見せられる点字文書にはなりません。では、AIが自動音訳や自動点訳の性能を画期的に向上させる兆しは見えるでしょうか。  ◆東ロボくん(トウロボくん)・プロジェクトに学ぶ  「ロボットは東大に はいれるか」というAIの研究プロジェクトをご存じでしょうか。国立情報学研究所教授の新井紀子氏がリーダーとなり、2011年に始動。研究者ら延べ約100人を動員し、大学入試の模擬試験問題をAIに解かせるという課題に挑戦しました。東ロボくんは毎年偏差値を上げ、2017年には有名私大の合格レベルには達したものの、東大合格はあきらめたと宣言しました。新井氏は、このプロジェクトはロボットを大学に入学させるためではなく、AIに出来ることと出来ないことをだれにも分かる形で示すのが目的だったといいます。  コンピュータが人間の能力をはるかに超えているのは、記憶・計算・統計といった部分です。最近のAIは、大量のデータ(ビッグデータ)を統計的に処理し、最適な答えを導く手法で多くのことを実現してきています。では東ロボくんはどうやって入試問題を解いたのでしょうか。例えば、英語の短文問題(文中の空所に適語を選択肢から選ぶ問題と、語句を並べ替えて正しい文にする問題)を解くために500億語の英文を読み込ませ、前後にどういう語の並びがあるとき、どの語が入る確率が高いかで答えを出していったといいます。注目すべきは、文の意味を吟味するのではなく、構文解析すらしていないということです。  この荒業で入試センター模試の英語の短文問題の正解率が90%だそうですから、ある意味、すごいのですが、見方を変えれば500億語も勉強してなお1割間違えるところに、AIの限界があるといえます。AIは言葉や文の本質的な意味を理解しません。人間の脳がどうやって言葉の意味を理解するのかまだ解明されておらず、機械にさせる方法も見出せていません。スマホに「今日の天気は?」などと話しかけると、合成音声がそれなりに答えますが、これは言葉の意味が分かった振りをさせているだけなのです。  IBMが開発した「ワトソン」というAIが、東大の医師が半年間見つけられなかった難病を診断したとニュースになりましたが、ワトソンが人間を上回る医学知識を獲得したわけではありません。ワトソンは、大量の医学論文を読み込み、人は医学論文をこのように書く傾向があり、人は電子カルテをこのように書く傾向があるということを統計的に割り出して、患者の病状等から病名を探索する支援をしたのです。蓄積した知識と与えられた条件から論理的に診断を下したのではありません。  統計的手法はAIの得意技です。分野によっては、目的を明確化し作りこむことで、相当の成果を上げることができます。一方、言葉の意味を理解し判断するといったことは、AIにはとても苦手です。それは、言葉の「意味」を数値化する方法が発見されていないからだと、新井氏はいいます。  ◆意味内容を伝えられるのは人間だけ  点訳や音訳は、元より墨字を一対一に点字や音声に置き換えればよいというものではありません。特に漢字の読みには多くの判断が必要です。「あついあついと言われた仲も三月せぬ間に秋がくる。」これは都都逸ですが、「三月」は期間を表すので、「さんがつ」でなく「みつき」ですし、「間」は「あいだ」でなく「ま」が適切でしょう。こういう読み分けは、意味が分かればほとんど無意識に行われます。  落語「山崎屋」で、大旦那が、吉原の遊女だった倅の嫁に「どこのお屋敷に奉公していたか」と尋ねると、「北国ざます」と答える。これに大旦那が「北国とは加賀様のことか…」と応じますが、二人が言う「北国」は「きたぐに」ではありません。江戸では吉原を「ほっこく」と呼び、かたや加賀を含む北陸道の諸国を「ほっこく」と称したことから、「ほっこく」と言うことで会話が展開するのです。これも文意に基づく判断が重要です。  ちなみに、英語にも綴りが同じで音が異なる語はあります。leadは「導く」ならリード、「鉛」はレッド。sakeはfor the sake of 「…のため」はセイクですが、飲むのはサーキ(酒)です。また、英語点字には、語の意味や発音で縮約の用法を判断する場合があります。  点訳では、文章の内容や構成により、記号の使い方を工夫し、レイアウトを整える必要があります。音訳においても、墨字の書体やレイアウトにより伝わる情報をいかに音声で表現するかで、分かりやすさが大いに変わってきます。このような「処理」が、文意の理解を基盤とすることは論を待ちません。アクセシブルな電子書籍の製作においても、内容に応じた編集が不可欠です。さらに、文章以外の図・イラスト・写真等の要素が加われば、AI任せは夢のまた夢でしょう。  なお、ここでは触れられませんが、東ロボくんを育てた新井氏は、中高生などを対象にした独自の調査から、数学にせよ社会科にせよ、教科書に書かれている日本語を理解する読解力が不足している子どもたちが意外に多いことにも警鐘を鳴らしています。  ◆気になる「ワンソース・マルチユース」  情報バリアフリーを求める際、何よりもまずテキストデータをという声を聞くことがあります。いわく、テキストデータは点字にも音声にも拡大文字にもなる―ワンソース・マルチユースだと。確かに、読めるものが何もない状態でテキストデータが入手できれば、用が足りる場面は多々あります。しかし、テキストデータが完全な点字や音声に自動で化けてくれる最良の解決策であるかのような誤解を生むことを、私は危惧します。テキストデータは万能ではありません。  AIには困難なことがなお多く、情報バリアフリーには手間暇がかかるという現実を、再確認したいと思います。 【参考文献】『AI vs.教科書が読めない子どもたち』新井紀子(2018)、「なぜ人工知能は東大に合格できないのか」新井紀子(「週刊新潮」 2017.2.2)   ●「声のかけ方」と「手の貸し方」の基本   駅や交差点で一人歩きの視覚障害者の方を見かけたら  当館では、ボランティアをはじめ一般市民の皆さんに、「駅や交差点で一人歩きしている視覚障害者の方を見かけたら、進んで声かけを」と呼びかけるとともに、声のかけ方と手の貸し方の基本をまとめたチラシを配付しています。これは5年前にも本誌に掲載しましたが、改めて皆さんに確認していただきたく、再掲載します。一番大切なことは、声をかけた方の意向に耳を傾けること。コミュニケーションしながら、安心・安全なサポートを心がけましょう。(館長 竹下 亘)  @なるべく正面から声をかけ、無理なくできる範囲で、手を貸しましょう。 (イラスト=盲導犬を連れている男性に女性が声をかけている。女性「何かお手伝いしましょうか?」男性「改札までご一緒してもらえると助かります」)  A「どのように手を貸せばいいですか?」と聴いてください。経験があってもなくても、その場で、相手に教えてもらいましょう。 (イラスト=白杖を持った男性に女性が声をかけている。女性「どのように手を貸したらいいですか?」男性「ひじを持たせてもらっていいですか?」)  B基本は、相手の半歩先に立ち、「ひじ」をもってもらい、一緒に歩きます。 (イラスト=白杖を持っている女性が「そのまま自然に歩いて下さればいいです。」と半歩前にいる男性の肘をつかんで歩いている。)  C段差、階段、スロープ、エレベーター、電車等、障害があるときは、必ずいったん立ち止まって、「下り階段を降ります」などと説明しましょう。 (イラスト=下りの階段の少し手前で男性が「下りの階段です」と男性の肘をつかんでいる女性に声をかけている)  ◎以下のことは厳禁です。お気をつけください!  ◆白杖をつかむ (イラスト=「はい、行きましょう」と声をかけられながら、持っている白杖を掴まれて驚いている男性)  ◆盲導犬に触る (イラスト=盲導犬を撫でている女性。盲導犬は「仕事中なんだけど」と女性をにらんでいる。)  ◆身体をつかむ (イラスト=「こっちですよ」と女性に後ろから肩と腕を掴まれている男性。困っている様子) ◆危なくない場所をスイスイ歩いている人には、無理に声をかける必要はありません。鉄道の場合、駅員に頼めばサポートしてもらえます。 【イラスト:名賀知子】  コピー・配布可(但し、部分コピー・改変不可)   ●報告の頁(8頁)  ◆災害発生時の避難方法について  先月の北新地の雑居ビル火災では多くの犠牲者が出て、改めて火災や地震への備えが求められています。当館ビルとアルテビルは耐震性は十分で、消防設備と避難経路も整備されていますが、万一の災害発生時には以下のように避難してください。なお、当館では、近く全館避難訓練を行う予定です(アルテビルでは管理会社により年1回、避難訓練が行われています)。  【本館】  @非常ベルが鳴ったら避難の準備をし、館内放送の指示を聞いた上で、エレベータを使わず、廊下北側突き当たりの非常階段から地上へ避難してください。(非常ドアを開ける際は、避難中の人に衝突する危険がありますので、慌てず、ゆっくり開けてください。)  A火災等で非常階段に出られない場合のみ、各階南東隅の非常口(ベランダ)から避難してください。避難はしごで逃げることができます。  B津波警報が出た場合は、上層階へ避難してください。  ※分館を含む全フロアに緊急地震速報機を設置し、本館7階には非常食、水、毛布等を備蓄しています。  【アルテビル分館】  @非常ベルが鳴ったら、職員の指示に従い、エレベータは使わず、9階西側(入口横)か9階南側(廊下の突き当たり)の避難階段を使って避難してください。  A津波警報が出た場合は、避難せずに9階にとどまってください。 あゆみ 【1月】 5日 仕事始め 6日 全館ボランティア活動・サービス再開 13日 ボランティア世話人会 15日 オープンデー(館内見学日・4人) 25日 点訳ボランティア養成講習会修了式 予定 【2月】 5日・12日 専門講習会「テキストデイジー編集コース」 10日 エンジョイ!グッズサロンと図書貸出休室(書庫・在庫整理日) 11日 全館休館(祝日) 15日 ボランティア友の会世話人会(臨時) 18日 わろう座映画体験会「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」 19日 オープンデー(館内見学日・要予約) 23日 全館休館(祝日) 編集後記 何かと忙しく、気詰まりなことの多い毎日。気分転換には何分必要だと思われますか?私は15分だと思います。行き詰まったり、思いつめたりしたら、たった15分違うことをすることによって、発想の転換ができたり、違う方向からのアプローチ、計画変更ができると思っています。軽く手足を動かしたり、少し鼻歌を歌ってみたり、もちろんお風呂に入ってぬくもったり……。忙しい合間にも自分の好きなことを15分するだけで、気分は変わりますよ。これからのために15分、短くて有効な時間の使い方です。(一) ONE BOOK ONE LIFE(ワンブックワンライフ) 2022年2月号  発行 社会福祉法人 日本ライトハウス情報文化センター(館長 竹下 亘)  住所 大阪市西区江戸堀1-13-2(〒550-0002)     TEL 06-6441-0015 FAX 06-6441-0095     E-mail info@iccb.jp  表紙絵 武部はつ子  発行日 2022年2月1日  定価 1部100円 年間購読料1,000円