日本ライトハウス情報文化センター   「ワンブックワンライフ」2018年2月号   <<表紙イラスト>> 食卓で鍋を囲む家族。いろんな野菜と豆腐が入った鍋から湯気が上がっている。鍋の前には鉢巻とたすき掛けをしたパパ。菜箸を持って「この日だけはしきらせてもらいます!!」娘はおどろいた表情でパパを見ている。ママは追加の野菜を入れた大ざるを頭上へ差し出し「ははぁ〜鍋奉行さまぁ〜…」   <<目次>>   ●掲示板(1頁)   ●センターの頁(2〜3頁)   ●利用者の頁(3〜4頁)   ●感謝報告(5頁〜7頁、別ファイル)   ●報告の頁(8頁)  以下は本文です。   ●掲示板(1頁) ◆3月8日(木)は「ボランティア交流会」へ  毎年、桃の節句の前後に開く「ボランティア交流会」は当館のボランティアと職員が年に一度一堂に会する貴重な機会です。普段来館する機会の少ない方もぜひご参加ください。今回は、全盲の音楽家楊 雪元(よう せつげん)さんの笛とテノール演奏をはじめ、活動歴30年・20年以上のボランティアへの感謝状贈呈、おいしいお弁当を味わいながらの歓談、恒例のバザー(物品提供を受付中)などを行います。当日は全館休館となります。お申込みは所属の係か3階総務係までどうぞ。  日時 3月8日(木)午前10時〜午後3時頃  会場 玉水記念館(肥後橋駅8番出口すぐ)  会費 1,000円(お弁当代) ◆今年も点訳・音訳体験オープンデーを開催  点訳・音訳ボランティアを増やすため今年も開催します。ぜひお知り合いをお誘いください。  日時 3月9日(金)・10日(土)、各日午後1時・2時・3時から開始、各回約90分  場所 当館4階会議室(その後、各階を巡回)  どなたでも歓迎。申込不要。直接ご来場ください。詳しくは当館総務係(電話06-6441-0015)。 ◆ボランティア世話人会の交代について  友の会では、2年単位で各係から推薦された10人の方に「世話人」になっていただき、2ヶ月(奇数月)に1回、「世話人会」を開催。館との情報・意見交換を行うとともに、ボランティア交流会、施設見学会など友の会の主催行事を企画・実施していただいています。来年度は約半分の方が交代になりますので、職員からお声かけした際は、ぜひご協力をお願いいたします。 ◆福島令子(れいこ)さんと守田 稔(もりたみのる)さんの講演会を開催  東大教授・福島智(さとし)さんの母である福島令子さんの講演「盲ろうのわが子とコミュニケーションをとるため考えついたこと」と、全盲で初めて医師国家試験に合格した精神科医・守田稔さんの講演「視覚障害者の職域拡大のために私が思うこと」が2月24日(土)14時から16時30分、当館4階会議室で開かれます。元文月会(ふみづきかい)会員有志主催。参加無料。申込み不要。お問い合わせは、電話090-4612-7813の橋實(みのる)さんまで。 ◆2月10日(土)は部分休館 11日(祝日)の振替休館日のため、別館の図書・情報係、7階の録音製作係、8階の電子書籍係は休室します。   <<センターの頁>>(2〜3頁)   ●音声デイジーの製作・貸出が20周年 CD図書貸出よりも、簡単・便利な利用法の普及を目指して  今日、視覚障害者の読書は、音声デイジーなしには考えられません。昨年は日本で視覚障害者用の録音図書の製作・貸出が始まって60周年でしたが、今年は国内で音声デイジー図書の製作・貸出と再生プレイヤーの発売が始まって20周年を迎えます。視覚障害者の読書スタイルを劇的に変えた音声デイジーの発展を振り返り、今後の課題を考えてみました。(館長 竹下 亘)  デイジーの誕生と、その画期的な特長  今日、全国で製作される音声デイジー図書は毎年約1万4千タイトル。全国の点字図書館の所蔵合計は40万タイトルを超え、視覚障害者の貸出利用は80万タイトルを超えています。さらにサピエ図書館の登録合計も推計10万タイトルに達し、インターネットで直接利用される回数は実に280万回を超えています。こうした音声デイジー図書時代の幕開けがちょうど20年前、1998年のことでした。  デイジー(DAISY)とは、「デジタル・アクセシブル情報システム」(Digital Accessible Information SYstem)の略で、多様な読書困難者を対象に、音声だけでなくテキストや画像、字幕や手話動画も含めた情報提供を行うための国際標準規格ですが、当初はスウェーデンで開発された視覚障害者のための録音・再生システム(Digital Audio-based Information SYstem)でした。それが1990年代、国際図書館連盟盲人図書館セクション議長だった河村宏氏らの尽力で国際標準規格DAISY2.0に発展し、日本のシナノケンシ株式会社によるCD図書再生機プレクストークの開発と結びついて、今日の音声デイジー図書の基盤が形作られたのです。  デイジーの画期的な特長は、音声圧縮によりCD1枚に50時間余りも録音できる上、目次や見出し、ページ編集が可能で、しおりもつけられるため、紙の本をめくる感覚で録音図書を読めること。そしてデジタルのため、インターネットで利用できる(ようになった)ことでした。  日本国内、そして当館における発展  国内では、1998年に初代のプレクストークTK300(写真掲載)が発売。同時に厚生省の3ヶ年に亘る補正予算が付き、デイジー製作システムの貸与や製作講習会の開催、3,181タイトルに及ぶデイジー図書の全国配付、8千台のプレクストークの貸与が行われ、普及に弾みがつきました。  当館でも、1996年秋、村井晶人(あきひと)製作部長(当時)がデイジーの検証に着手し、1998年秋からボランティアへのデイジー講習会(写真掲載)とプレクストークの販売を開始。1999年4月からはMOデッキとデイジー製作ソフト(シグツナ)を使い、毎月5〜6タイトルのデイジー図書の製作と貸出を始めました。また1999年度上半期には、国が全国に配付したデイジー図書の内172タイトルを、当館の録音ボランティアがテープからデイジー図書へ変換・編集しました。 その後の発展は、多くの録音ボランティアの皆さんのよく知るところだと思いますが、  2001年 デイジースタジオ(現在のMSC・メディア製作センター)を開設  2004年 デイジー図書のインターネット配信システム「びぶりおネット」を日本点字図書館と開始(2010年「サピエ図書館」に統合発展)  2008年 マルチメディアデイジー製作開始  2009年 録音図書を音声デイジーに1本化  そして今日、音声デイジー図書の製作は年間400タイトル(雑誌、プライベートを含む)を超え、貸出も6万タイトル以上、サピエ図書館からの利用は21万回に達するに至ったのです。  もっと簡単・便利な読書方法の普及が課題  しかし、大きな課題もあります。一つは、高齢化や費用負担、広報不足等により、デイジーの利用に至らない視覚障害者が非常に多いこと。そして点字図書館からの郵送貸出よりインターネットでサピエ図書館を直接利用した方が断然便利であり、しかもCDやCDドライブの生産が先細りになっているにも関わらず、サピエ図書館の直接利用者が全体の数分の1(約15,000人)に留まり、毎年1千人程度しか増えていないことです。これに対しては、インターネットによるデイジー図書の利用がもっと簡単・便利になる手立てを講じるとともに、広報にも工夫と努力をしなければなりません。  さらに、著作権法上は「知覚や読みの障害」のある人はもちろん、近く批准が期待されるマラケシュ条約では「身体障害により書籍の保持や操作、目の焦点を合わせることが困難な人」も音声デイジー図書を読むことが認められるにも関わらず、そうした方々の間にデイジー図書の利用が広がっていないことです。  今後はこうした課題を見据えて、デイジー図書がさらに普及するように取り組んでいきたいと思いますので、ご協力をお願いいたします。   主な音声デイジー製作・利用ソフトウェアとプレイヤー  ◆製作用ソフトウェア 当館では、PRS Pro を使用していますが、他にMyStudio PCなどが使われています。    ◆再生(録音)プレイヤー「プレクストーク」 PTN3(卓上型、再生用、CD・SD対応、48,000円) PTR3(卓上型、再生録音、CD・SD・サピエ図書館を直接利用、85,000円) PTP1(携帯型、SD対応、再生録音、41,040円) リンクポケット(携帯型、再生録音、SD対応・サピエ図書館を直接利用、85,000円)  ◆パソコン用ソフトウェア(インターネットでサピエ図書館を直接利用) MyBookV(41,040円) Net-Plextalk(11,880円) AMIS(無償提供)  ◆スマホ、タブレット用アプリ(インターネットでサピエ図書館を直接利用) Voice of Daisy(3,100円)  DaisyTalk(5,000円) Read 2 Go(2,400円)  いーリーダー(3,000円)  ◆その他の機器 よむべえスマイル(活字文書音声読み上げ機、CD対応、198,000円)  ブレイルメモスマート16、40(点字ディスプレイ、SD対応、289,000円〜)  ブレイルセンスシリーズ(音声点字情報端末、SD対応、383,500円〜)   <<利用者の頁>>(3〜4頁) ●伴走者の“状況説明"と励ましで、ハーフマラソンを完走 奥野 真里(点字製作係)  肩こり解消のために体を動かそうと、スポーツジムに通いだし、5、6年が経ちます。ときどきマラソンに出ないのかと聞かれることもありましたが、そのような目標を持ったことはありませんでしたし、まさか自分がそんな世界に足を踏み入れることになるとは思いもしませんでした。でも、何が起こるか分からないもの。ある時、ハーフマラソンに出てみないかという誘いを受けました。最初はマラソンを走るというイメージが乏しく、無理だとあきらめていたのですが、徐々に、外を走るのは気持ちいいかもしれないという楽天的な気持ちが増してきました。そして、いつの間にか“出場することに意義があるのだ”と都合よく解釈し、とうとう走ることを決意しました。  目標ができて、いざランニングの練習。しかし、どのように走ったらいいのかわかりません。最初はスピードも重視しないといけないと思い、全力で走ってみますが、案の定長くは走れません。右も左も分からない中で、伴走者に走り方を聞いたり、マラソンに詳しい人に練習方法を教えてもらいながらトレーニングを積んでいきました。また、サピエ図書館で「ランニング」「マラソン」「トレーニング」といったキーワードで検索してみたところ、多数の図書がヒットしました。データをダウンロードしたところ、ちょうど私が求めていた情報と合致する図書がすぐに見つかり、読むことができて、情報のありがたさを痛感しました。  さて、視覚障害者がマラソンする場合、輪にしたロープを伴走者と共有して持ち、息を合わせて走ります。歩幅や腕の振り方など、お互いに慣れる必要があります。その際、何より大事なことは“状況説明”です。走る道は、いつも平坦とはかぎりません。路面がガタガタしていたり、道がカーブしていたり、ある時は別のランナーとすれ違ったり、ウォーキング中の人を追い抜いたり…、さまざまなことが起こります。そういった状況説明を伴走者にしてもらうことがたいへん重要です。さらに走ることに慣れてくると、路面の状態ばかりでなく、景色や周りの状況も知りたくなります。例えば公園内を走っていると何かいい匂いが。「右手でバーベキューをやってます」と言われると、この匂いの原因に納得です。夏から秋に季節が移り、少し肌寒くなってきた頃、周りのランナーがどんな服装で走っているのか気になりました。聞いてみると、「半袖・短パンの人もいれば、上下とも長い人もいます」と教えてもらい、なぜか安心。自分の体感で服装を決めればいいのか、と思ったものです。  マラソンでの状況説明は、リアルタイムで情報を伝えてもらう、まさに“走る音声解説”だと思います。画面の状況や動きが分からないと見ているドラマや映画の内容が半減してしまうのと同じように、目の前の状況が分からなければ、走ることに不安を感じてしまいますし、走る楽しさも感じられないでしょう。ただし、伴走者が走りながら瞬時に目の前の状況を把握して伝えるという行為は大変なことと思います。体力もさることながら、情報を伝える力とゆとりが必要だからです。  そうして迎えたマラソン当日。あまりの参加者の多さに圧倒されつつ、無事にスタートを切りました。今回の挑戦は参加することに意義があると思っていましたが、練習をしているうちに、徐々に完走したいという欲が出てきました。しかし、実際に走り始めると21キロの道のりはとても長かったです。前半は「ミニオンズが走ってますよ」と聞いて、「握手できるかな」と冗談を言う余裕もあったのですが、後半になると、さらに体が疲弊してきて、何度も歩くことを考えました。でも、その度に、私の心の悲鳴が聞こえたのか、伴走者から「まだまだ行ける。大丈夫!」と励まされ、気持ちを持ち直し、足を前へ運ぶことができました。 おそらく一人で走っていたら、完全に途中から歩いていたと思います。そして、長いと思っていた21キロを、ついに完走することができました。  マラソンを始めて3か月。とても大きな達成感がありました。伴走者とともに走ることの楽しさはもちろんのこと、改めて“情報”の大切さを教えてもらった初マラソンでした。 ●伴走者から一言 伴走の面白みと楽しみ 松井 友美恵(総務係)  奥野さんがランニング練習を始めて2か月目に、こんな言葉が出ました。「走り始めてから前より行動範囲が広くなったよ。」  大会当日の段取り、練習時間・場所・準備する物など、ひとつずつを二人で相談しながら進めていきます。暑さ・寒さ・突然の雨・風・湿気、いつもは安全に走れるコースに人が溢れていたり、濡れた落ち葉や水溜まりや泥濘で走りにくくなっていたり、命綱のロープを落としてしまったり…。準備をしていっても、いざ走り始めてみると、その日によって毎回違った練習になります。  大会当日、走者は未知のコース、距離を走りました。途中辛そうな表情も見えました。ロープで繋がりながらしんどい時を共有します。万一ここで止まったとしても、これまでの場面場面を一緒に越えてきた信頼があります。そして、外を走り始めて間もない彼女は結果として止まることなく完走しました。素晴らしい姿を見られた喜びもさることながら、それまでのプロセスで得た繋がりが伴走の面白みでもあり、楽しみでもあります。   <<センターの頁>>    ●報告の頁(8頁)  ◆プレクストークPTR3が漸く出荷開始  昨年3月末に製造中止となって以来、後継機の発売が滞っていたシナノケンシ株式会社のデイジー図書録音・再生機プレクストークPTR3が「機能限定品」として今年度中に出荷されることになりました。PTR3は再生の他、SDカードやUSBメモリに録音可能で、無線と有線でサピエ図書館に接続できるのが特長ですが、技術上の問題で無線が繋がらないため、既にご注文の方に限り機能限定品を納品し、来年度中に無償で改修することになったものです。再生専用のPTN3は昨年7月から販売されていますが、PTR3の納品を長期間待ちわびている視覚障害者の方々は全国多数に上ります。デイジー図書再生機が安定的に供給されない事態は極めて深刻な問題ですので、今後、このようなことが繰り返されないように注視していきたいと思います。  ◆短歌サロン「金平糖(こんぺいとう)」がサポーター募集  2008年の発足以来、毎月、当館で歌会を開いている視覚障害者のサークル「金平糖」が点訳・墨字訳や歌集発行のサポーターを求めています。歌会には晴眼者も含めて20人近くが集まり、和気あいあいと活動していますので、興味のある方はぜひ一度覗いてみてください。例会は毎月第4金曜日13時〜15時、4階会議室3で開かれています。お問い合わせは3階総務の竹下までどうぞ。  ◆ボランティア友の会世話人会報告  1月11日(木)10:00〜11:45  出席者:山本、神谷、森、那須、橋本、小倉、雪岡、増尾、館から竹下、林田、松井 <館からの報告> ・当館の職員配置状況について ・ヘレン・ケラー没後50周年行事について (11月23、24日、中之島公会堂で開催)  <協議事項> ・来年度の世話人交替について ・ボランティア友の会交流会、総会について <次回>3月7日(水)10:00〜11:30  あゆみ 【1月】 5日 仕事始め 6日 利用者サービス・ボランティア活動再開 11日 ボランティア友の会世話人会 12日 見学:参議院法制局 13日 オープンデー(参加4人) 25日 近畿視情協・職員研修会「日本点字図書館 長岡英司館長講演会」  予定 【2月】 10日 振替休館(別館図書・情報係、8階電子書籍係、6階録音製作係のみ休室) 16日 大阪東LC主催・引退犬チャリティー落語会(ホテルニューオータニ) 17日 オープンデー(館内見学日) 23日 わろう座映画会体験会 24日 福島令子・守田稔講演会(4階) 【3月】 8日 全館休館:ボランティア交流会(玉水記念館)・情報文化センター職員会議  編集後記 今年のお正月は、毎年恒例のアジア・太平洋地域から来日中の視覚障害研修生をわが家に迎え、一緒に楽しく過ごしました。今回はネパールの知的で凛とした女性でしたが、年齢は25歳で、わが家の二人の息子よりも年少。いつも若く見られることに慢心して「私は何歳だと思う?」と尋ねると、真顔で「65歳ですか」と言われ、ギャフン(T_T)。そろそろ研修生の“おじいさん”になってきたようです。(竹)  ONE BOOK ONE LIFE(ワンブックワンライフ) 2018年2月号  発行 社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センター(館長 竹下 亘)  住所 大阪市西区江戸堀1-13-2(〒550-0002)     TEL 06-6441-0015     FAX 06-6441-0095     E-mail info@iccb.jp  表紙絵 武部はつ子  発行日 2018年2月1日  定価 1部100円 年間購読料1,000円