平成27年度、28年度「音訳教材データベース」モニタリング結果

平成27、28年度と2度にわたり、「音訳教材データベース」(以下、「音訳DB」)の利用に関するモニタリングを実施しました。

【平成27年度】
モニタ:視覚障害生徒4人、および、各担当教員
視覚的資料の音訳者:3人
教科書:4タイトル
 ①拡大教科書:「中学 歴史的分野(日本文教出版)」3巻p106-1~109-7までの視覚的資料13個
 ②点字教科書:「中学 公民(教育出版)」3巻p81~135までの視覚的資料13個
 ③点字教科書:「高等学校 生物(第一学習社)」4巻p6~56までの視覚的資料6個
 ④活字教科書:「高等学校 生物(第一学習社)」p74~83までの視覚的資料6個

(1)地域の公立中学2年(通常学級)の拡大教科書使用の生徒。
 視覚単一障害。これまで録音図書を聴いたことは無く、本もあまり読まない。音声で教科書を聴いたのは初めて。教室では黒板を拡大読書器で見ている。補助教員は授業では付いていない。配布資料等はルーペを使用。全教科拡大教科書を使用しているが、自宅に持ち帰ってはいない。図表をどのようにとらえているかは不明。

[教科書]拡大教科書:「中学 歴史的分野(日本文教出版)」3巻p106-1~109-7までの視覚的資料13個

[音訳教材の使用環境]担当教員が音訳教材(mp3データ)をダウンロードし、すべて1枚のCDに焼いて家庭用CDプレイヤーで再生。該当ページの授業の日の朝、別室で10分ほど聞いた。

[ヒアリング]
・図のタイトルの前に、拡大教科書のページ(110-1ページ、110-2ページ等)を読んでいたのが良い。教科書のページを探しやすかった。
・音声に合わせて教科書の資料を目で追えた。本文を読んでいるとすぐに図を見つけることが難しいが、音声があると該当の図を見つけられた。
・特に地図が細かく説明されていて良かった。教科書の地図はどこを見て良いのかわからないことが多いが、「西から順に読みます」などとアナウンスしてから、ゆっくり細かいところまでゆっくり読んでくれていたので、音声を聴きながら目で追うことができた。
・スピードもちょうど良かった。きちんと聞き取れた。
・地理の教科書は地図が多いので、今回のような音があると良い。
・グラフで、グラフの中に数値が書かれていないもの(左右のメモリから値を見なければならないグラフ)は目で見るのが大変なので、音声で説明があると良い。
・授業の前に聞く予習形式で使うのが良い。内容を一度頭に入っているので、授業中は教科書だけでも分かった。

[担当教員より]
・いつ、どのように使うかという活用方法が難しい。授業中は聴けないので事前に校内の別室で聴いたが、あまり時間が取れず、かつ、朝一という時間帯だったので、授業が4限目などの場合は内容を忘れてしまうこともある。iPhoneなどを用意できれば、休み時間に聴くこともできると思った。
・「音訳DB」は、教師にとってはそれほど難しくないが、視覚障害生徒がダウンロードするのはクリックをたくさんしなければならないので難しいと思う。
・資料を1つ1つダウンロードするのではなく、ある程度まとめてダウンロードできると良い。
・選択した資料の音訳データを1枚のCDに焼ける機能があると良い。

(2)地域の公立中学3年(通常学級)の点字教科書使用の生徒。
視覚単一障害。点字を読むスピードはそれほど遅くないが、点図(特に地図)の触読が苦手。1年生の時はクラスでPCを使用していたが、一般教室で使用するのに抵抗がありやめた。1年の3学期以降に点字板を使用開始。2年生の終わり頃にブレイルメモを使用開始した。

[教科書]点字教科書:「中学 公民(教育出版)」3巻p81~135までの視覚的資料13個

[音訳教材の使用環境]担当教員が学校のPCでダウンロードし、USBメモリに入れて生徒に渡した。音訳教材はPC(Windowsメディアプレイヤー)で再生。音訳教材は復習に活用した。

[ヒアリング]
・何度も繰り返し聞き、イメージを確認した。
・mp3ファイルをPCで再生するのが楽。
・音声を聞いているだけでも、内容が充分わかった。
・読み手が複数であることは気にならない。

[担当教員より]
・ダウンロード時にパスワード入力などが必要なので、「音訳DB」の使用方法の説明を聞かずに操作するのは難しかったと思う。事前に説明を受けていたので、問題なく操作できた。
・1つ1つのファイルサイズが小さいので、すぐにダウンロードすることができた。

(3)視覚支援学校高等部普通科3年の点字教科書使用の生徒。
視覚単一障害。

[教科書]点字教科書:「高等学校 生物(第一学習社)」4巻p6~56までの視覚的資料6個

[音訳教材の使用環境]担当教員がダウンロードし、iPadに入れて再生。

[ヒアリング]
・点字教科書だけでなく、音声での説明があると分かりやすい。生物以外の教科も使ってみたい。
・今回は、点字教科書用と活字教科書用の両方の音源を聴いた。点字用の音声は細かく点図の内容が説明されていて良かったし、活字用の音声は、図の位置関係が説明されていて良かった。どちらの情報も欲しい。点図に書かれていない情報でも説明があるとより分かりやすい。
・点字教科書の図は非常に難解で読むのに苦労している。どこから読み始めれば良いのかがわからない。見開きで図が完結していれば良いが、見開きの図があって、1ページ本文を挟んで、また見開きで図が再開されていることも多い。

[担当教員より]
・音訳教材は、先天性の全盲で小さいころから音声の情報に慣れている生徒には良いように思う。
・視覚優位の弱視の生徒には、あまり複雑な画像だと、画像を見ながら音声の内容を理解していくのが難しいかもしれない。
・たとえば、今回の「ATPの合成と分解」の解説では、物質の形状(普遍的なもの)の説明と、点字教科書の便宜上のレイアウト(四角い枠)などを同じような雰囲気で説明していたが、区別できるように説明する必要がある。
・「カルビン・ベンソン回路」の解説は素晴らしかった。このように説明すればいいのかと、自分も参考になった。
・活字教科書には、音声解説があると良いものと、音声解説するとかえって分かりにくくなるもの(視覚的資料であるからわかるもの)があることが分かった。ただ、復習のために自宅で音訳教材を使う場合は、すべての図に音声解説があっても良いのかもしれない。

(4)視覚支援学校高等部普通科3年の墨字教科書+拡大読書器使用(教科によって教科書のPDFデータをiPadで使用)の生徒。
視覚単一障害。

[教科書]活字教科書:「高等学校 生物(第一学習社)」p74~83までの視覚的資料6個

[音訳教材の使用環境]担当教員がダウンロードし、iPadに入れて再生。

[ヒアリング]
・iPadはページが変わった時にどこを見て良いか分からなくなってしまうことがあるので、教科によってiPadと活字教科書を使い分けている。生物は活字教科書の方が使いやすい。
・画像の音声解説も良いが、表の音訳教材が欲しい。表は横に見て行かなければならないので、iPadでも活字教科書でも非常に分かりにくい。英語のスペルの読み上げ(iPadのローター機能はわかりにくい)、数学の表や図の音訳教材も欲しい。

[担当教員より]
・「ダウンロード」ボタンが再生確認できるページにあると良い。再生ボタンの横に欲しい。
・iPad(サファリ)ではmp3のダウンロード機能が無いので、PCでダウンロードしてからiPadに入れた。ダウンロードから再生まで、すべてをiPadでできると良い。
・「音訳DB」には図ごとに音声が登録されているが、単元または教科書単位で視覚的資料の音訳データだけのデイジー版があると良い。 


【平成28年度】
モニタ:視覚障害生徒2人、および、各担当教員
視覚的資料の音訳者:8人
教科書:8タイトル
①拡大教科書:「中学 NEW CROWN3(三省堂)」1巻p53-1~58-5までの視覚的資料13個
②拡大教科書:「中学 未来へひろがるサイエンス3(啓林館)」4巻p181-1~197-6までの視覚的資料16個
③拡大教科書:「中学 新編新しいみんなの公民(育鵬社)」2巻p46・47-2~60・61-12までの視覚的資料13個
④拡大教科書:「中学 新編新しい数学(東京書籍)」2巻p92-3~104-5までの視覚的資料11個
⑤点字教科書:「高等学校 生物基礎(実教出版)」3巻p5~107までの視覚的資料13個
⑥点字教科書:「高等学校 新編数学(東京書籍)」3巻p4~46までの視覚的資料13個
⑦点字教科書:「高等学校 新日本史(山川出版社)」6巻p76~7巻p77までの視覚的資料9個
⑧点字教科書:「高等学校 新編国語総合(現代文編)(第一学習社版)」4巻p53~89までの古文4話

(1)地域の公立中学3年(通常学級)の拡大教科書使用の生徒
視覚単一障害。教科書にかなり近づいて見ているため一度に見られる範囲が非常に狭く、図表の全体をとらえるのが困難。

[教科書]以下、すべて拡大教科書
・「中学 NEW CROWN3(三省堂)」1巻p53-1~58-5までの視覚的資料13個
・「中学 未来へひろがるサイエンス3(啓林館)」4巻p181-1~197-6までの視覚的資料16個
・「中学 新編新しいみんなの公民(育鵬社)」2巻p46・47-2~60・61-12までの視覚的資料13個
・「中学 新編新しい数学(東京書籍)」2巻p92-3~104-5までの視覚的資料11個

[音訳教材の使用環境]
・担当教員が、教科書ごとに、登録されている音訳教材をデイジーデータ(「音訳DB」が自動生成)として一括ダウンロード。CDに焼いて生徒に渡した。
・再生機器は、学校のプレイルームのCDラジカセ(家庭用のCDプレイヤーでも、mp3音源が再生できる機種であればデイジーフォルダ内のmp3ファイルを順番通り再生可能)。

[ヒアリング]
・とても細かい説明で、音声に合わせて教科書が見やすかった。
・教科によっては、ページが移ったときにそのことを教えてくれていたが、すべての教科で、例えば見開きページの大きな図で、矢印がページをまたいで引かれているところは、「隣のページに移り…」という音声説明があると良かった。
・矢印の色についても、もっと説明を入れてもらえるとわかりやすい。ページのどのあたりかの説明(「左端から右端へ」、「上から下の○○あたりに」等)はありがたい。
・予習、復習のどちらでも使えるが、自分の場合は復習で使うのが効果的ではないかと思った。授業中には、音訳教材を聞く時間を取ってもらえれば併用できるが、先生の説明がどんどん進んでいくので使えないと思う。

[担当教員より]
・モニタ生徒は弱視のため、図表の全体像をとらえることが難しく、音声による説明を聞きながら小さなピースを全体化していく方法は、非常に有効だと思う。
・丁寧なマニュアルがあったので、ダウンロード、CDへの焼き付け、再生はすべて容易にできた。特に、一括ダウンロード機能はかなり助かった。今後は、Lesson、章、単元ごとにダウンロードできるようにしてほしい。
・「音訳教材データベース」の画面は27年度も見たが、28年度はかなり見やすくわかりやすくなったと思う。ただし、検索方法はもう少し工夫してもらえると良い。今回、特に社会に関して複数の教科書が出てきてしまい、とまどった。

(2)視覚支援学校高等部普通科1年の点字教科書使用の生徒。
視覚単一障害。クラスの中で唯一の点字教科書使用者。中学までは地域の学校に通っていた。点字の文章はそれなりのスピードで読めるようになっているが、点図の触読は苦手。

[教科書]以下、すべて点字教科書
・「高等学校 生物基礎(実教出版)」3巻p5~107までの視覚的資料13個
・「高等学校 新編数学(東京書籍)」3巻p4~46までの視覚的資料13個
・「高等学校 新日本史(山川出版社)」6巻p76~7巻p77までの視覚的資料9個
・「高等学校 新編国語総合(現代文編)(第一学習社版)」4巻p53~89までの古文4話

[音訳教材の使用環境]
・担当教員が、教科書ごとに、登録されている音訳教材をデイジーデータとして一括ダウンロード。CDに焼いて生徒に渡し、かつ、iPad等のiOS機器に転送した。
再生機器は、プレクストークPTPリンク(デイジー専用再生機)、Windowsメディアプレイヤー、iPad、iPod Touch、iPhone(すべてデイジー再生アプリではなくmp3再生アプリを使用)。最も使用したのは、プレクストークPTPリンクとWindowsメディアプレイヤー。iOS系のものは準備段階で手間がかかるためあまり使用しなかった。

[ヒアリング]
・図を触ることには苦手意識がある。最も大変な教科は地理。今回は、生物、日本史など、あまり授業で教科書を使用しない(教師が独自の資料を用意)教科で、「こんな図が載っているのか」という新たな発見があった。
・古文(国語総合)は、1回目は本文だけ読み、2回目は注釈を入れながら読まれていたのが良かった。本文だけを理解することができるし、わからなければ2回目の読みで注を参照することができる。点字教科書にはない資料(住吉物語絵巻)の写真が音訳されており、物語を想像しやすくなると思った。
・生物は、図を客観的に、要点を伝えてくれているのが良かった。
・音訳教材は、持ち運びが便利でいつでもどこでも聞ける。小型プレイヤーなら片手で聞けるのも良い。車や電車の中で点字を読むのは大変なので、点字教科書とは別のツールとして音訳教材があるのはありがたい。
・授業では活字教科書を主体に動くので、見出しは活字のページを先に読んでほしい。自分は、中学までは地域の学校で学んでいたが、地域の学校では点字教科書の情報は無いようなものだったので、自分も活字教科書のページ番号を聞くのに慣れている。
・音訳教材は、主要5教科はあった方が良い。個人的に一番欲しいのは、現代文を含めた国語。日本史など文章主体の教科も欲しい。また、図の資料が多いものや、折れ線グラフ、人の顔などの情報も欲しい。折れ線グラフで、4、5本の線が重なっていると、どれがどのグラフかわからなくなってしまう。

[担当教員より]
・ダウンロードは容易にできた。特に一括ダウンロード機能は良い。Iさんに渡すCDを作成するのも簡単で分かりやすかった。
・ダウンロードはしやすかったが、コンテンツが増えてきたら、検索方法がもう少し工夫されると良い。例えば、教科書名での検索が簡単で良いのではないか。高校になると、同じ教科で同じ出版社のものが複数ある。視覚障害の生徒は音声のみでさがさなければならないので、もう少し簡単に目当ての教科書を絞れると良い。

以上